平和な日常~秋~

結局、話が脱線しつつも一行は近くにあるという温泉宿に向かうことになる。

そこは鄙びた温泉宿と言うべきかぼろい温泉宿というか微妙な旅館だったが、湯治客も居るらしくそこそこ客が居るようだ。


「わたしはよこしまといっしょにはいる」

到着すると早々に男女別れて温泉に入ろうとするが、タマモは何故か横島と一緒に男湯に入ると言い出す。

男女が別々にお風呂に入るのは常識として知ってはいるが、そもそもタマモの価値観的には恥ずかしいとかはまだないので横島が一人だと寂しいだろうと考えたらしい。


「タマちゃん男湯に入るの!?」

子供のタマモならば正直どちらに入ってもいいのだろうが、少女達は若干驚きの表情を見せる。

まあ実際にはタマモくらいの年齢ならば、父親や兄弟なんかと一緒にお風呂に入るのは珍しくはないのだが……。


「俺とはいつでも一緒に入れるだろ。 せっかくだからみんなと一緒に入ればどうだ? 楽しいぞ」

「う~ん……」

驚く少女達と違い横島は平然とした様子でタマモの意志を確認するが、さよと刀子を除く少女達は僅かに微妙な表情で横島とタマモを見ていた。


(そういえばタマモちゃんの本当のご両親はどうしてるのでしょうか?)

タマモと横島が親子のような兄妹のような関係なのはみんな当然知っているが、そもそもタマモの過去は誰も知らないのである。

何か訳あり少女だという噂は有名だが木乃香達でさえ本当の両親を見たことがないし、あえて彼女達からもタマモの両親に関しては聞いてない。

タマモが麻帆良に来て三ヶ月が過ぎているが、夕映は一度も姿を表さない両親はよほどの訳があるのだろうと考え込む。


(高畑先生……)

一方明日菜はしゃがみ込んでタマモと同じ目線になり話をする横島の姿に、かつて幼い自分を育ててくれた高畑の姿が重なって見えていた。

姿どころか行動や考え方までまるで似ても似つかない横島と高畑だが、どこか明日菜にはダブって見えてしまう。

その理由も本人は分からずに若干不思議そうではあるが、明日菜は高畑も横島のように自分を見守ってくれたのかなと思う。


(やっぱり刹那のこと相談しようかしら……)

そしてこのメンバーでさよを除くと唯一タマモの正体を知る刀子は、横島とタマモの関係を間近で見て刹那の件を思い出している。

まるで我が子のようにタマモに接する横島だが、タマモの正体は妖怪なのだ。

裏の人間がその違いや難しさを知らぬはずもないし、実際横島は知っているのだろうと刀子は確信している。


(どっかの隠れ里の末裔って噂も本当でしょうね)

横島のタマモへの対応は、神鳴流の仲間達と似ていると刀子は感じていた。

元々神鳴流や関西呪術協会は人間に友好的な妖怪なんかとはそれなりに交流があり、横島のように差別などしない者も存在する。

はっきり言えば人間の魔法関係者が妖怪などに対し差別的な考えが生まれた原因は、明治維新後に日本に来た西洋魔法使い達が原因である。

元々当時のヨーロッパ人は白人至上主義的な価値観が強いかったし、西洋魔法使いはそれに加えて西洋魔法至上主義でもあった。

当時の詳細は長くなるので省くが、現代日本において人間と妖怪などの関係がよくない原因は彼らと彼らが持ち込んだ価値観である。

少し話が逸れたが古くから残る魔法関係者の隠れ里なんかでは、妖怪なんかとひっそりと共存してることもあった。

刀子はそんな横島ならば刹那の悩みや苦しみを一緒に考えてやれるのではと密かに期待していた。



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