平和な日常~秋~

さて秘密結社完全なる世界の最高幹部発見の知らせから世界がようやく落ち着きを取り戻し始めたこの頃、ロンドンのアパートではネギの祖父が今後のことを悩んでいた。


(まさか連中が生きていたとは……)

引退したとはいえ元立派な魔法使いであり、メルディアナの魔法協会のトップまで上り詰めた祖父には比較的早い段階で情報が入っている。

彼の失脚後メルディアナは予想通り元老院の影響が強くなっていたが、それでも仲間だった者達も残っているし彼を失脚に追い込んだメガロメセンブリア元老院でさえ彼の隠居を惜しむ者が居た。

ロンドンに越して来て以降、メガロメセンブリア元老院からは名誉職就任の打診さえあったほどである。

確かにネギの問題では不手際だったがそれ以上に彼の功績は大きく、そもそも麻帆良などの反メガロ側の魔法協会と元老院との橋渡し役を勤めた功績は評価が高い。

ナギの父親でありネギの祖父である彼に完全なる世界の情報が入るのは当然だった。


(狙いはアスナ姫か)

魔法世界を変えるにしろ終わらせるにしろ、必要なのは魔法世界の現在の継承者たるアスナ姫なのだ。

地球側に興味を示さなかった完全なる世界のフェイトが、イスタンブールや関西に興味を持つ理由は他には浮かばない。


(わしらも人事ではないな)

ネギの祖父からするとアスナ姫は直接の関係はないが、ネギ自身からすると満更無関係では無かった。

ウェスペルタティア王家の直系の血は、もうアスナ姫とネギの二人にしかないのだ。

仮にアスナ姫が死ねば、次の継承者はネギの子供に移ることになる。

加えて完全なる世界の幹部生存の情報が世界に流れれば、壊滅状態だった完全なる世界の残党や信奉者が再び勢いづく可能性もあった。

連中はナギに恨みを持つ者も多いだろうし、例えフェイトがナギの息子を気にしなくても恨みや復讐でネギは危険になる可能性も十分にある。


(わし一人でどこまで守れるのやら)

老いたとはいえ人並み以上の実力は残っているが、それでも一人で出来ることには当然限りがある。

ネギが本格的に狙われてから対策を考えてるのでは遅いのだ。


(向こうに行くしかないかもしれん)

ここ数日ずっと今後の対策を考えていたネギの祖父だが、その結論は危険を承知で魔法世界へ行くしかないとの結論だった。

完全なる世界は本来は魔法世界の組織なので単純に安全なのは地球側なのは確かなのだが、問題は魔法が秘匿されてる地球で狙われると祖父一人ではネギを守りきる自信がないことである。

出来ることならば魔法世界と関係が薄い地球側で隠れ住みたいが、世界中の魔法協会やメガロの監視付きのネギが自国に来ることは何処の魔法協会も望んでないのだ。

メルディアナを出て三ヶ月近く過ぎるがロンドンに住居を構えたままなのは、ネギの教育の他にも行き先が他には無かったことも関係している。

まあ魔法世界に行ってもメガロの監視は続くのだろうが、地球と違い魔法世界ではまだネギの存在がほとんど知られてないので、辺境で隠れ住むくらいは可能だろうと考えていた。

それに魔法世界には祖父自身の友人も居るし、ナギの関係で親交がある者もいる。


(あまり気は進まんが、あの男を頼るしかないかもしれん)

いかにネギが連合や帝国に目を付けられていても、彼らが容易には手を出せない存在に祖父は心当たりがあった。

祖父自身はあまり好きな人ではないらしいが、魔法世界には強大過ぎる個人の力で自由に生きてる男が存在する。


(出来ればネギには合わせたくないんじゃがのう)

心底気が進まない様子の祖父だが、ネギの自由と未来を守るには手段を選んでる余裕は無かった。




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