平和な日常~秋~

「マスター、買って来たわよ」

十月も数日が過ぎたこの日も早朝と放課後はスイーツ作りに励む木乃香だったが、そんな放課後に店にやって来たのは美砂・円・桜子の三人だった。


「サンキュー。 本当は俺が買いに行こうかと思ってたんだけどさ~」

三人が買って来たのは、麻帆良で人気のスイーツショップのケーキである。

そこは麻帆良の現役大学生ながら、一昨年と去年の体育祭の料理大会で優勝した女性が経営してる店だった。

今年の料理大会のスイーツ部門の優勝候補筆頭に上げられてる女性なのだ。


「マスターと木乃香、麻帆良スポーツに乗っちゃったもんね」

本来ならば横島か木乃香が買いに行くべきなのだが、実は前日に発行されは麻帆良スポーツ体育祭特集号にて木乃香が注目の一人として載ってしまったのである。

昨年中学生にして料理大会で優勝した超鈴音と同じく木乃香も優勝の可能性が十分あると書かれたのだが、その理由として横島の元でバイトをしてる件を書かれていた。

しかも木乃香と横島は小さいながら顔写真付きであり、流石に対戦相手の店に買いに行くのは目立つかと美砂達に頼んでいたのである。


「俺は麻帆良スポーツに載ったの三度目だよ」

「一年に三度も載る人はなかなか居ないわよね」

最初は占い師としてで二度目は宝くじ当選者として新聞に載った横島が、今度はパティシエとして載ったのだから最早慣れたものだった。

美砂達などの横島と親しい者達も、また横島かと笑ってるくらいである。


「それじゃみんなで味見してみっか。 お礼に木乃香ちゃんが練習に作ってるやつも好きなだけ食べていいぞ」

「そんなに食べたら太っちゃうわよ!」

そんな訳で美砂達が買って来たスイーツを木乃香や夕映達も含めてみんなで味見することにするが、横島がいくら大盤振る舞いをしても少女達はそんなにバクバクと食べる訳ではない。


「木乃香、毎日味見してよく太らないわね」

「ウチも最近は横島さんにお願いして、食事の方で気をつけてるんよ。 流石に太るのは嫌や」

女の子達が大量のケーキを前にしてする話はダイエットの話だった。

今のところ太る気配がない木乃香も体重は気にしてるらしく、最近は食事に気をつけている。

まあ気をつけているて言っても木乃香は早朝の仕込みから来てるので、最近は木乃香と明日菜も朝は横島の店で食べている。

ついでにお昼の弁当も横島がさよの分と一緒に作っているが、体重を気にする木乃香の要望で木乃香の分は低カロリーメニューが最近は多い。

当然体育祭の練習で運動する明日菜とは別メニューである。


「俺としては育ち盛りなんだから、ダイエットなんか必要ないと思うんだがな~」

「甘いわね。 一度太ったら痩せるのは更に大変なのよ! マスターだって痩せた美人の方がいいでしょ!」

甘い物と体重の狭間で悩む少女の苦悩は、やはり男の横島にはあまり理解出来ない悩みだった。

そんな横島は当然のように、美砂達に体重や体型を維持する大変さや重要性を熱く語られることになる。

しかも何故か最終的には太ったら横島に責任を取ってもらおうと話が流れ、ようやくスイーツの味見を始めることになる。



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