平和な日常~秋~

さて木乃香の料理特訓をすることにした横島だが、基本的にはいつもと同じように一緒に調理するだけだった。

ただ大会の対策として、木乃香には一回でも多くスイーツを作らせることを考えてるらしい。

結局のところ木乃香の弱点は経験不足なことであり、予選はともかく準決勝以上は経験の差が物を言いそうなのだ。


「今日はとりあえずスポンジ生地でも焼いてみるか」

店のフロアは夕映とのどかに任せており、厨房では木乃香とタマモがエプロン姿でやる気を見せている。

そんな中、横島は日頃木乃香があまり加わらない作業から教えることにしていた。

スポンジ生地もその一つで何度か一緒に作ってはいるが、木乃香はさほど経験がない工程の一つである。

その理由としてケーキ系のスイーツは横島が開店前に作ってるので、木乃香が居る時間に作る時は売れ行きがいい時などしかない。

そんな時も基本的にデリケートな生地作りは横島が行っており、木乃香はクリームなどをデコレーションする方を担当していた。

横島の場合は持ち前の凝り性を発揮してか季節やその日のフルーツなどの材料によって、生地の材料の分量が微妙に違ったりするので木乃香といえど横島の生地までは完全に作れないのだ。

まあその分クリームなどのデコレーションは、店で売れるレベルに上達がしていたが。


「今日はうちのオーブンを使うけど、近いうちに当日使うオーブンとかを用意するからそれで練習しよう。 経験不足は練習でカバーしないとな」

「そこまでせえへんでも……」

「慣れない器材は使うの大変だぞ。 当日使う器材が分かった以上それで練習しないと準決勝以上はつらくなる」

横島は木乃香が考えてる以上に念入りに対策をするつもりだった。

料理大会の会場は予選は高等部の調理科にある本格的な調理実習室を使用するが、準決勝以上は技能系の種目の特設会場にて観客の前で実演するのだ。

先程夕映達が集めて来た昨年までのDVDには予選で使うキッチンと準決勝以上のキッチンが映っており、横島はそこから事前に練習が必要なオーブンなどが毎年同じである事実を確認している。

実際横島や木乃香は知らないが、大会出場者は事前に高等部の調理科に行き当日予選で使うキッチンで練習する者は多い。

さすがに決勝以上の特設キッチンは練習出来ないが、それも横島同様に設備を調べ自前で用意して事前に練習する者も当然存在する。

正直毎年大会で勝ち上がる者は、それだけ入念な準備をするのが当たり前だった。

決してこの大会で将来が決まる訳ではないが、昨年の超鈴音同様に優勝時に得る名声は小さくはないのだから。


「うち大丈夫かな……」

「任せとけって。 最低限予選は通過させてやるよ」

正直先程去年の大会のDVDを見て以降は、木乃香は大会出場者の熱意に戸惑っていた。

基本的に中等部の生徒が技能系の大会や種目に参加することは稀であり、超と五月という例外が珍しいのだ。

木乃香からすれば超や五月のようなプロとして活動してる者と同じ扱いは重荷でしかない。

しかしそれが木乃香の中等部での一般的な評価であることも紛れも無い事実だった。

結局木乃香は妙に手慣れている横島に全てを委ねて頼るしかなかった。


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