平和な日常~秋~

同じ日、麻帆良学園では体育祭の準備が始まろうとしていた。

体育祭は十月の祭日である体育の日とその次の日の二日に渡って行われるが、準備は二週間前から行われるらしい。


「相変わらず競技が多いわね」

「マイナーな競技も多いですから」

この日2-Aではさっそくホームルームで競技に出場する選手を選んでいる。

体育祭の花形でもある陸上競技から、マイナーなスポーツまで競技の数は多い。

日頃バカレッドと呼ばれる明日菜は運動神経抜群であり、体育祭にはあちこちに借り出されるようだ。

出場競技の多さに少し面倒そうな表情をするが、座席が後ろの夕映はご愁傷様といいたげな表情である。


「次に料理大会ですが、他のクラスなどから木乃香さんに出場をしてほしいとの意見が来てますがどうしますか?」

明日菜の場合は去年も同じだったことからクラスや学年単位での成績の為に半ば強制的に出場が決まるが、他の者は一応参加か不参加かは自己判断だった。

そして今年はやはり木乃香に料理大会への出場を促す意見が多いらしい。

横島同様に目立った影響だろう。


「うち自信ないわ~」

体育祭の料理大会のレベルは相当高く木乃香は自信がないらしい。

昨年は中華部門で超が優勝で五月が準優勝だったが、そもそも料理大会で中学生が優勝したのは初だったのだ。

大学生の中には料理研究家としてすでに活動してる者なども出場しており、料理が得意なだけでは勝てないレベルだった。


「大丈夫だって!」

「木乃香なら楽勝よ楽勝!」

進行役のあやかの問い掛けに迷う木乃香に、クラスメートは相変わらずの楽観的な様子で出場を促す。

そんなクラスメートに押される形で参加するだけならと参加を承諾するが、夕映はそんな木乃香を見て少し物思いに耽っていた。


(なんというか、木乃香のクラスでの立ち位置が変わったです)

元々木乃香は個性的なクラスではあまり目立つタイプではないし、率先して何かやるよりは後方で静かに協力するタイプだった。

夕映やのどかも同様だが、賑やかなクラスメート達の輪の中心に居る人物ではなかったのだ。


(短い間にいろいろありましたからね)

変わった原因は考えるまでもなく横島絡みである。

偶然麻帆良に来た横島に真っ先に声を掛けたその結果、木乃香のクラスでの存在感は格段に上がってしまった。

夕映から見て横島はいろいろ目立つ行動をするが、その割には細かいとこは周りの人に丸投げしてしまうので周りに居ると自然と一緒に目立ってしまうのだ。


(実際料理の腕前は上がっているのですしね)

木乃香の向上心が高いのか横島の教え方がいいのか料理に詳しくない夕映には分からないが、その腕前が驚異的に上がってるのは一番身近で見ていたので知っている。

横島も木乃香も見た感じは普通に料理を楽しむ学生にしか見えないが、作る料理のレベルが普通ではなかった。

嘘偽りなく横島の味を再現出来るのは今のところ木乃香一人である。

まあ木乃香自身は教えられた料理をそのまま作れる凄さに気づいてないが。

レパートリや料理の応用力などの柔軟性は流石に未熟だが、周りが木乃香の大会参加に期待する理由は夕映も理解していた。


(人の縁とは不思議なモノですね)

不思議な人間と出会い才能を開花させていく木乃香が、夕映は少し羨ましくも感じる。

そして人の縁の不思議さをシミジミと感じるが、そんな夕映自身も割と他人事でないとはまだ気づいてないらしい。


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