平和な日常~秋~

「今日は梨を収穫しよう」

さて超鈴音の過去など頭の痛い横島だが日頃の生活は変わるはずもなく、この日は早朝から庭を囲む塀に沿うように植えられている梨の収穫をしようとしていた。

以前少しだけ説明したが、庭には塀に沿う形で何種類かの果樹の木が植えられている。

この日は春から四苦八苦しながら世話をしてきた梨の収穫をするらしい。


「わーい! しゅうかくだー」

夜が明けたばかりの静まり返った庭では、横島とタマモとさよの三人が二本ある果樹の梨を収穫し始めた。

横島は肩車でタマモに収穫させていき、さよには脚立で高い位置の梨を中心に収穫させていく。

特にタマモは夏の頃から毎日見上げては日々大きくなる梨の収穫を指折り楽しみにしており、この日も満面の笑みを浮かべて食べ頃に実った梨を収穫する。

多少ぎこちない収穫の二人だが、それでも楽しそうなのは変わらない。


「美味しいといいけどな~」

タマモとさよは楽しそうなのだが、果樹の育成は思ってた以上に難しく正直横島は自信がない。

あまりに自信がないので、時々夜に果樹に詳しいハニワ兵に見て貰ったことも何度かあった。


「せっかくですから収穫したての梨食べていいですか?」

「そうだな、このまま食べてみるか」

収穫した梨を大きめのざるに入れていく横島達だったが、さよは後で食べるまで待ちきれないらしくすぐに食べたいと言い出す。

横島は一応収穫した梨を見てみるが、そのままでも問題なさそうなので収穫したのをそのまま味わうことにする。

皮も剥かずに食べる三人だが、シャリっとした独特の食感と共に広がるみずみずしい甘みに思わず笑みがこぼれてしまう。

それは日頃店で食べるフルーツに劣らぬ味だった。


「うわ~、甘いですね」

「とってもおいしい」

時期的には完熟の少し前であり食感がとてもいいが、何より自分の庭の収穫だとの思いが味を引き立てている。

最近は秋の果物でスイーツを作っているので、梨も結構食べる機会はあるが自分で収穫した梨は格別であった。


「おはようございます」

自分で収穫した梨を心ゆくまで味わう横島達だが、空が完全に明るくなる頃になると猫達に会いに茶々丸がやってくる。


「おはよう。 今日は梨の収穫したから何個か持って行ってくれ」

季節が変わっても相変わらず毎日猫達に会いに来る茶々丸だが、横島達の収穫の時間と被るので結構おすそ分けを貰うことが多い。

横島から貰ったおすそ分けは、その日のエヴァの朝食になるらしく新鮮な収穫物はエヴァにも好評だった。

ちなみに街の人気者の茶々丸は日頃からよくおすそ分けを貰うので、エヴァの食卓は茶々丸の貰い物が多いらしい。

タマモの影響で横島宅も貰い物が食卓によく上がるが、それはエヴァも同じらしかった。


「ありがとうございます。 マスターは甘い物が好きなので喜ぶでしょう」

猫達に囲まれながらも貰った梨を抱えて礼儀正しく挨拶する茶々丸は相変わらずの表情である。

最近は喜怒哀楽が結構現れて来たが、それでもまだ感情豊かとは言えない。


「わたしもしゅうかくしたんだよ! ちゃちゃまるさんもしゅうかくしようよ!」

ただ茶々丸の微妙な感情の変化を自然に見分けることが出来るタマモは、すっかり茶々丸とも仲良くなっていた。

この日も梨の木を静かに見つめる茶々丸に、タマモは一緒に収穫をしようと誘う。

最近のタマモと茶々丸の関係はどちらかといえばタマモが茶々丸を振り回しているが、茶々丸は割とそんな関係が気に入ってるらしくこの日も誘われるままに収穫を体験する。

日々学習し成長するタマモの影響は茶々丸にとっても大きく、この日の収穫も彼女の魂を成長させる一因になっていた。

何はともあれ横島達は結構な量の梨を収穫していた。



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