平和な日常~秋~

「なんだ美味しいじゃん」

「そうですね」

その後バターや砂糖の割合を変えたクッキーを三種類ほど作った横島だったが、バターや砂糖を減らした物も意外と評判が良かった。


「これは普通のクッキーと別物だと考えるべきだと思うです」

分量の違う三種類を食べ比べるとやはり味には差があるが、同じクッキーだと考えないなら十分美味しい。

味にコクが足りない感じはどうしても少し気にはなるが、逆にそれが軽い感じでいいと考えることも出来る。

夕映や木乃香達は食べた経験のない市販のダイエット食品は、こんな感じなのかと感心しながら食べていた。


「面白そうだから、このまま三種類作って渡そうか」

木乃香達が食べ比べを楽しんでる姿を見た横島は、どうせだからと三種類作ることに決める。

そうと決まれば横島が生地を成形しタマモが動物の形にかたぬきをして、次々にクッキーを作っては焼いていく。

木乃香達はそんな横島達の様子を見ながら、自分達も練習のつもりで作るのがしばらく続いていった。


「冷めたらラッピングして出来上がりだぞ」

「うん」

クッキーが焼き上がると自分達で焼いたクッキーや余り物の食材なんかを持って木乃香達はいつもと同じような時間に帰るが、タマモはその後も厨房でクッキーが冷めるのをじっと見つめて待っている。

先程までは木乃香達に教わりながらたどたどしい字でメッセージカードを書いていたが、すでに全員分を書いてしまい後は袋に入れてラッピングするだけなのだ。

どうも最後は自分でやりたいらしく、やる気満々の表情でクッキーが冷めるのをじっと待っていた。



「これはタマちゃんからの昨日のお土産のお礼です」

「マスターもマメなのよね」

次の日さよは学校に登校するなりタマモからのお礼だと言ってクッキーを配るが、昨日の遠足でも横島からの差し入れだとマドレーヌを配っていただけに、何人かの少女は横島はマメ過ぎると笑っていたりする。


「タマちゃんがお返ししたいって言ったんじゃないの? タマちゃん人に物をあげるの好きなんだし」

何だかんだと理由を付けてはサービスが多い横島なだけに少女達も驚きはないが、タマモも負けず劣らずプレゼントするのが好きなことはみんなもよく理解していたらしい。


(ありがとうか)

そしてさよから手渡されたクッキーのメッセージカードを見た刹那は、表情にこそ出さないが少し複雑な心境だった。

妖怪であるタマモが人の子として育てられ幸せに生きる姿には、どうしても違和感というか複雑な心境が抜けきれないらしい。

刹那本人は特に羨ましいと考えてる訳ではないが、素直に見れないだけの蟠りがあるのも確かなようだ。


ちなみに余談だが昨日休んでいた茶々丸にはこの場では渡されなかったが、今朝猫に会いに来た時にタマモがこっそりプレゼントとしてあげていたりする。

加えて最近仲がいい美砂達やあやかなどからは、昨日のお土産を貰っていた。

割と無表情な茶々丸が驚き慌てる姿を美砂達がからかうなどあったが、最近は割とよくある光景である。

何はともあれこの日も2-Aは朝から元気いっぱいだった。



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