平和な日常~秋~

その後バスステーションで点呼を取って出発する2-Aの少女達だが、欠席者はエヴァと茶々丸の二人だけだった。

最近クラスに友人の多い茶々丸だけに欠席を残念がる者も居たが、それほど深く追求などしないまま話は流れてしまう。

そんなこの日の天気は若干雲があるが秋晴れになっており、最高気温は二十八度の予報で見事な遠足日和である。

移動中のバスの中では景色を楽しむ者やカードゲームなどをする者など、それぞれが自由な時間を過ごして目的地に向かっていく。



「なかなか美味いな」

一方この日の横島だったが、タマモと一緒に季節のフルーツを使ったデザートを試作していた。

梨やぶどうや柿などがようやく旬に入っており、さっそく仕入れて来たのだ。

味見と称して二人で生のままのフルーツをつまみ食いする美味しさは、実際の味以上の美味しさを感じてしまう。


「やっぱこの自然な甘さを生かした物にするか」

基本的に横島のスイーツは甘さ控え目で素材の味を生かすようなスイーツが多い。

まあ実際にそれは本格的なケーキ屋ならば当然として考える基本ではあるが、基本ゆえに難しいことでもある。

同じ果物でも品種や産地によって味は違うし、仮に品種と産地が同じ物でも微妙に味が違うのが普通なのだ。

その果物の味を生かしつつ同じスイーツを作るのは簡単ではないが、実は横島の場合は必ずしも同じ味にこだわるつもりがなかった。

極端な話をすれば横島のスイーツは同じ苺のショートケーキでも、日によって微妙に味が違いその日の食材によって味を変えていたのである。


「そういや、新しいピクルス漬けなきゃならんかったんだな」

そんなスイーツの試作が一段落すると今度は自家製ピクルスの調理を始めた。

日頃からいろいろな種類の料理を作っている横島だが、それには細かな仕込みが必要不可欠なのである。

和食の時に出す漬物や洋食の時に使用するピクルスなんかは当然自家製なのだ。

通常のレストランや食堂なんかでは置き場所の関係でなかなか漬物まで手作りはしないが、横島の店の場合は無駄に広い地下室があるので自作していた。

開店当初は穀物と酒が少しある程度だった地下室も、今は置いてる食材が増えている。

年中室温が変わらないここの地下室は食材の貯蔵にはピッタリであり、漬物なんかも普段は地下室に置いていたのだ。

まあそれでも地下室は半分も使ってないが……。


「タマモ、お昼はパスタにでもしようか?」

結局その日の横島とタマモは、学生の居ない午前をノンビリと料理をしながら過ごすことになる。



「山だー!!」

「貴女達、海でも同じことをしてましたわね」

その頃高原の牧場に到着した2-Aの少女達だが、数人の少女がバスを降りるなり叫んでいた。

先月海でも真っ先に砂浜に走って叫んでいたのだが、基本的には山でも同じらしい。

若干呆れた様子のあやかは、そんな騒ぐ少女達を慣れた様子で集めて牧場の見学に向かう。

この日の予定は午前中は牧場の見学とチーズ・バター・アイスクリームの手作り体験などが予定されており、お昼を挟んで午後は自由時間になっていたのである。



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