平和な日常~秋~

それから数日が過ぎて遠足の日になると、さよはいつもと同じく木乃香達と一緒に登校していく。

ただ登校と言っても彼女達が向かうのはいつもの校舎ではなく、向かう先は麻帆良第五バスステーションである。

そもそも麻帆良学園には学園専用のバスステーションが幾つかあり、第五バスステーションは通称遠足専用バスステーションと呼ばれていた。

場所は麻帆良の中心地の駅前の近くにあり、交通の便もいいことから第五バスステーションはいつからか遠足専用バスステーションとして使用されている。

ちなみに第一から第四バスステーションまでは、麻帆良外から来る観光客や視察団体向けのバスステーションとして使われるらしい。


「うわ~、凄い賑やかですね」

「うちの学校はなんでもアリだから」

木乃香達と一緒にバスステーションに到着したさよだが、彼女が驚いたのはバスステーションと周囲の店の活気だった。

実は第五バスステーションは日頃から遠足専用として使われてるため、遠足に向かう学生向けの店が付近に多い。

定番の弁当からお菓子は当然として、変わり種ではリュックや鞄の一日レンタルなど業種も豊富である。

さよや木乃香達はお菓子などは事前に用意して来たが、最悪手ぶらで来てもバスステーション近辺で全部揃うらしい。

長年学校で幽霊だったさよも流石に遠足は初体験だし、遠足に向かうバスステーションがこんな状況だとは知らなかったようだ。


「ところでその包みは何ですか? 今日はお弁当は不要なはずですが」

周囲では威勢のいい店の売り子の声と遠足前に買い物をする中学生の声で賑やかだが、夕映はさよが持ってる不自然な荷物に注目する。

この日さよは遠足用の鞄の他に、紙袋に入った荷物を一つ持って来ていた。


「ああ、これは横島さんからの差し入れです。 中身はマドレーヌだそうですよ」

「相変わらずマメな人ですね」

夕映の問い掛けにさよは中身を夕映や木乃香達に見せるが、それは一口サイズより少し大きいマドレーヌが一つずつ小分けにされて紙袋に入っている。

クラス全員分の他にも教師やバスガイドや運転手にも配れるようにと少し多めに用意したらしい。

そんな紙袋の中身を見た夕映と木乃香達は思わず笑ってしまう。

相変わらずいい加減なとこはとことんいい加減だが、マメなとこはとことんマメだった。

今回の遠足の件でもさよのおやつは普通に市販の好きなお菓子を買うように言ったが、その代わりにみんなに配れる手作りのおやつを用意したらしい。

これに関して横島はおやつをみんなで選んだりするのも楽しいし、こんな時は市販のお菓子が一番だと考えていた。

実は今回の遠足は昼食は弁当ではなく現地で用意することになっていたので、木乃香達は横島がさよのおやつに相当凝るのではと予想していたのだが見事に肩透かしを食らった形だ。

ただ横島は実際そこまで世間知らずではないし、普通に学生としてさよに楽しんで欲しいので過剰なことはしてないつもりである。

まあ日頃の弁当に懲り過ぎたのが今回のおやつの予想の原因だが、横島的には弁当はまだ普通だろうと考えてる範囲らしい。

正直さよの弁当は十分目立っており普通からは逸脱してるが、その辺りの価値観のズレは相変わらずだった。



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