平和な日常~秋~

そして中等部の学園長室でクルト・ゲーデル失脚の第一報を聞いた高畑は、複雑そうな表情を隠せなかった。

考え方の違いから対立することもよくあった高畑とクルトだが、その理想だけは同じだと高畑は考えている。

高畑がナギ達の考え方や生き方を継いだのに対し、クルトはそれを否定することでナギ達の理想と悲願を叶えようとしていたのだ。

国家という強大な権力にあえて飛び込むことで世界を救おうとしているクルトを、高畑はそれなりに理解しているつもりである。

ただ大多数の元老院の側からすると、クルトのやり方は過激で危険なものでしかないのも同時に理解していた。

全ての生きとし生ける者は皆平和で幸せな暮らしを望むが、だからと言って目指す理想が同じ訳ではない。

そもそもメガロメセンブリア元老院は、魔法世界の危機を根本的に解決しようなどは考えてない可能性が高い。


「彼が再起するのは難しいかもしれんのう」

一連の情報がこんなにも早く麻帆良まで伝わったのには理由がある。

実は元老院はあえてクルトのネギの問題に対する裏工作の一部を意図的に流出させていたのだ。

今後クルトが再び何かを企んでも周りが相手にしなければ、彼はただの裸の王様になってしまう。

元老院としては麻帆良などの反メガロ勢力とクルトの協力を密かに警戒しているらしい。

もっとも近右衛門など地球側魔法協会の人間からすれば、あんな危なっかしい人間と協力するつもりなど更々ないが。


「彼が行っていた例の秘密結社壊滅に関しても相当危険なことをしておったようじゃ。 今回はわしも元老院の連中の行動の方が理解できる」

あまり表沙汰にはなってないが、クルトは高畑と同様に秘密結社完全なる世界の壊滅に執念を燃やしていた。

メセンブリーナ連合の対テロ対策にも深く関わっており、合法非合法問わず完全なる世界を追い詰めていた実績がある。

実は高畑が長年殲滅している完全なる世界の残党も、元を正せばクルトが見つけ出した連中だった。

そういう意味では高畑とクルトは協力関係だったが、ここしばらくは完全なる世界の情報が途絶え全て壊滅したのではとも見られている。

まあ信奉者などの小物は相変わらずちらほら情報があるが、元老院はすでに脅威ではないと判断していた。

元々クルトがオスティア総督になったのもこの時のやり過ぎが根源にあり、元老院の一部には暗殺を考えていた者も居たとか。


「高畑君ならば理解してると思うが、クルト・ゲーデルに踊らされぬようにの。 あの男はメガロメセンブリアの人々の為ならば、悩むことなくネギ君や明日菜君を犠牲にするぞ。 わしにはそんなあの男のやり方が世界に通用するとは思えんがの」

終始無言の高畑に近右衛門はきつい口調でクルトに関わるなと釘を刺す。

現状のクルトが何か動こうとするならば、メガロに直接関わりがない高畑を利用する可能性があることを近右衛門は心配している。

無論高畑もそんなクルトの思惑を見抜けるだろうが、クルトの場合はその裏に更に別の思惑を隠していても不思議ではない。

近右衛門は高畑がクルトに関われば、ネギと明日菜が危険になることを再三に渡り話して高畑に自覚させていくことになる。

そしてこの数日後にはネギの祖父からもクルト・ゲーデルに気をつけるようにとの手紙が高畑に届き、奇しくも対立した近右衛門とネギの祖父は同じ意見で高畑に自制を促すことになった。



16/100ページ
スキ