平和な日常~秋~
「また連合は政争か」
「らしいな。 お偉いさんは暇らしい」
それは魔法世界の辺境にあるごく普通の酒場での会話だった。
酒場のマスターはトップニュースとして流れてる、オスティア総督更迭のニュースを冷めた表情で見つめている。
そんなマスターのふとした呟きに常連らしき獣人は、いつものことだといいたげに笑っていた。
歴史を揺るがす可能性を秘めた解任劇もここでは酒の肴でしかない。
「更迭された総督は確かアレだろ?」
「そういや、サウザンドマスターの盟友だったか。 英雄も地に堕ちればただの人だな」
魔法世界とはいえ議会制民主主義を採用するメセンブリーナ連合では、実はこの手の政争はさして珍しくなかった。
更迭された総督が何かやらかしたんだろうと疑う者や、ただ単に政争に負けたのだろうと考える者など反応は様々だが一応にその反応は薄い。
まあメガロメセンブリア辺りならばもう少し反応が大きいのだろうが、あいにくと辺境の人々からするとあまり興味はないようだ。
それもそのはずで大戦の英雄の一人であるクルト・ゲーデルが元老院議員になった時は、過剰なほどの注目度や期待感が集まったがその熱はすぐに冷めてしまう。
大衆が当初クルトに求めたのは、ナギのような圧倒的な実力による改革と発展だった。
二十年前の大戦後も各地では紛争や争いが収まらず、人々は行方不明になったナギに変わる新たな希望をクルトに求めたのだ。
しかしクルトが元老院になって公にした功績は驚くほど少ない。
無論議員になったばかりの青二才が即座に何かを成すなど不可能なのは人々も理解しているが、それでも元老院の中に溶け込み一般市民と掛け離れた存在になったのだと感じた者も少なくなかった。
当初の希望が過大だった分だけ失望は大きく、クルトの現状の評判は必ずしもよくはないのである。
まあそれでもメガロメセンブリアなどのメセンブリーナ連合の市民達には相変わらず一定の支持があり、きちんと下積みをしながら政治をしてるとの評価相まって支持基盤は盤石なのだが。
「そんなことよりお前さん。 そろそろ仕事じゃないのかい?」
「いっけね。 せっかく手に入れた仕事でまたクビになるとこだった」
「変わった爺さんだよな。 わざわざこんな辺境に運送会社置くなんて」
彼らがクルトの話題を口にしていたのはおよそ三分程度であり、話はすぐに別の話題に移っていく。
実はこの辺境の町に最近運送業の会社が出来て、この獣人の男はそこの従業員だったらしい。
ちなみに魔法世界ではメセンブリーナ連合やヘラス帝国などとは別に中小の都市国家がそれなりに存在するが、中小の都市国家ではまだ物流の輸送網が完全に出来上がってないのである。
元々種族からして違う連合と帝国は現在も冷戦状態なため、世界規模の交流やグローバル化は全く進んでない。
そんな辺境の都市国家のまた辺境にある小さな町に運送会社を設立していたのは、以前魔法世界で空中艦を買っていた土偶羅の人型分体であった。
ちなみに魔法世界では容姿や年齢が違う土偶羅の人型分体が、合計で五十体ほどあちこちに派遣されていることは横島も知らない事実である。
魔法世界の拠点の一つにと土偶羅が選んだのは流通業だった。
「らしいな。 お偉いさんは暇らしい」
それは魔法世界の辺境にあるごく普通の酒場での会話だった。
酒場のマスターはトップニュースとして流れてる、オスティア総督更迭のニュースを冷めた表情で見つめている。
そんなマスターのふとした呟きに常連らしき獣人は、いつものことだといいたげに笑っていた。
歴史を揺るがす可能性を秘めた解任劇もここでは酒の肴でしかない。
「更迭された総督は確かアレだろ?」
「そういや、サウザンドマスターの盟友だったか。 英雄も地に堕ちればただの人だな」
魔法世界とはいえ議会制民主主義を採用するメセンブリーナ連合では、実はこの手の政争はさして珍しくなかった。
更迭された総督が何かやらかしたんだろうと疑う者や、ただ単に政争に負けたのだろうと考える者など反応は様々だが一応にその反応は薄い。
まあメガロメセンブリア辺りならばもう少し反応が大きいのだろうが、あいにくと辺境の人々からするとあまり興味はないようだ。
それもそのはずで大戦の英雄の一人であるクルト・ゲーデルが元老院議員になった時は、過剰なほどの注目度や期待感が集まったがその熱はすぐに冷めてしまう。
大衆が当初クルトに求めたのは、ナギのような圧倒的な実力による改革と発展だった。
二十年前の大戦後も各地では紛争や争いが収まらず、人々は行方不明になったナギに変わる新たな希望をクルトに求めたのだ。
しかしクルトが元老院になって公にした功績は驚くほど少ない。
無論議員になったばかりの青二才が即座に何かを成すなど不可能なのは人々も理解しているが、それでも元老院の中に溶け込み一般市民と掛け離れた存在になったのだと感じた者も少なくなかった。
当初の希望が過大だった分だけ失望は大きく、クルトの現状の評判は必ずしもよくはないのである。
まあそれでもメガロメセンブリアなどのメセンブリーナ連合の市民達には相変わらず一定の支持があり、きちんと下積みをしながら政治をしてるとの評価相まって支持基盤は盤石なのだが。
「そんなことよりお前さん。 そろそろ仕事じゃないのかい?」
「いっけね。 せっかく手に入れた仕事でまたクビになるとこだった」
「変わった爺さんだよな。 わざわざこんな辺境に運送会社置くなんて」
彼らがクルトの話題を口にしていたのはおよそ三分程度であり、話はすぐに別の話題に移っていく。
実はこの辺境の町に最近運送業の会社が出来て、この獣人の男はそこの従業員だったらしい。
ちなみに魔法世界ではメセンブリーナ連合やヘラス帝国などとは別に中小の都市国家がそれなりに存在するが、中小の都市国家ではまだ物流の輸送網が完全に出来上がってないのである。
元々種族からして違う連合と帝国は現在も冷戦状態なため、世界規模の交流やグローバル化は全く進んでない。
そんな辺境の都市国家のまた辺境にある小さな町に運送会社を設立していたのは、以前魔法世界で空中艦を買っていた土偶羅の人型分体であった。
ちなみに魔法世界では容姿や年齢が違う土偶羅の人型分体が、合計で五十体ほどあちこちに派遣されていることは横島も知らない事実である。
魔法世界の拠点の一つにと土偶羅が選んだのは流通業だった。