平和な日常~秋~

「おまたせ。 今日は冷たい鍋とさんまの塩焼きだぞ」

そんな厄介なことがあったこの日の夜、店には木乃香達四人が日が暮れた後も残っていた。

加えて偶然夕食を食べに来た刀子を合わせて、この日の夕食は八人で食べるようだ。

相変わらず横島との微妙な距離感が気になる刀子だが、夏休み期間中から木乃香達や他の少女達と一緒に夕食を食べる機会が増えている。

最近も週に二~三日の割合で夕食を食べに来る刀子と毎日居る木乃香達が会わないはずはなく、夕食を店で食べる機会が多い彼女達はいつしか一緒に食べるようになっていた。


「もうそんな季節になるのね」

日頃から旬の食材を使う機会が多い横島のこの日のメニューは、純和風の冷たい鍋とさんまの塩焼きと夏野菜のサラダである。

季節的にまだ夏野菜が収穫出来ており、一部は庭でついさっき収穫した野菜だった。

さんまはようやく旬に差し掛かる頃であり、まだ少し高いが美味しそうな物があったので朝の仕入れで買って来たらしい。

夏の野菜と秋の味覚の一つであるさんまの両方があることに、刀子は季節が変わるのを感じていたようだ。


「それで九月からのシフトはどうしますか?」

まだまだ蒸し暑い時間だが店内はクーラーで涼しく、冷たい鍋は暑さで食欲が減退してる夕映にはちょうどよかった。

そんな夕食を食べながら、夕映は今後のバイトのシフトについて話を切り出す。

夏休み期間中は木乃香達が常時バイトとして入っていたが、お盆期間を除くと居ないと困る程度にはお客さんが入っていた。

九月に入って数日は木乃香がバイトに入って様子を見ていたが、やはり学校が終わる放課後の時間は結構混雑している。

その結果九月以降も、バイトを毎日夕方に入れようかとの話が持ち上がっていた。


「やっぱ夕方は一人だと大変かな~。 厨房に入るとフロアが見えんし。 だけどみんなは学校もあるし大変だろ?」

夏休みは木乃香達が自発的に考えて横島がそのまま認める形でバイトをしていたが、学校が始まると流石に横島も木乃香達をバイトで縛り付けていいのか悩んでいる。

正直もっと遊んでいい年頃だし、元々好きで志願した木乃香以外はバイトにしない方がいいかと考えていた。


「私は横島さんさえいいなら続けたいな。 ただ夕方よりは土日が稼げていいかも」

横島としては木乃香以外は正式なバイトを終了させようかと考えていたが、意外なことに真っ先に続けたいと言い出したのは明日菜だった。

横島が店を始めてもうすぐ半年になるが、忙しい時の臨時の手伝いや夏休みのバイトの収入が一番日々の生活に影響していたのは明日菜である。

身寄りがなく近右衛門の支援で生活している明日菜は、学費だけでなく生活費も近右衛門から支援して貰っていた。

実は中学生になった後に明日菜は、せめて生活費は自分の新聞配達で稼ごうと近右衛門に交渉したが反対された経緯がある。

近右衛門と高畑はせめて中学を卒業するまでは普通に学校に通うことを望んだため、妥協点として無理のない範囲での新聞配達を認めることになっていた。

そのため現在は明日菜の新聞配達の収入から近右衛門に学費や生活費を返済しているが、返済以上に学費と生活費の支援を現在も受けている。

何か無駄なやり取りにも見えるが近右衛門は支援を減らさないことを当初から明言しており、明日菜が節約や自分で稼いだ金額から無理のない範囲ならと返済金を受け取っていたのだ。

従って横島の店でのバイト代も明日菜にとっては貴重な現金収入である。



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