平和な日常~夏~3

何かと謎がある横島の過去に関わる人物である上に、突然の祭りにすんなり協賛して資金を出したことからも横島との親密さが伺える。

無論夕映や木乃香達も横島の過去を暴きたいとは考えてないが、興味がないと言えば嘘だった。

実は芦コーポレーション社長の芦優太郎を名乗る土偶羅の人型が、先程横島の出店に顔を出していたのだ。

横島が忙しいから手伝ってくれよとタメ口を叩くと、彼は逆にこっちが手伝ってほしいわと返している。

二十歳の横島に対して芦優太郎は六十代がいいとこだし、友人にしては年が離れ過ぎているが態度や話す様子からは友人に見えていた。

どこか不思議なその関係に夕映は持ち前の好奇心を疼かせているらしい。

ちなみに余談だが土偶羅が老人の姿を人型で使っているのはもちろん理由があり、それは一言で説明すれば人間関係への対策だった。

そもそも土偶羅は横島と違い、人間にナメられるのは好きではない。

基本的に人型の分体は人間を相手にする任務なので、相手にナメられにくい年配者の容姿を使用しているのだ。



さてそんな時間も夜七時を過ぎると、辺りは暗くなり始める。

公園内には麻帆良祭で使用した臨時の街灯が人々を照らしていた。

一部には今年の麻帆良祭のネーム入りの街灯もあるが、急造の祭りなだけに仕方ないだろう。


「手持ち花火のイベント?」

「そうよ。 雪広グループと那波グループの協賛イベントらしいわ」

一方ようやく落ち着いて出店の営業をしていた横島だったが、急遽祭りのラストを飾るイベントが行われることになっていた。

まあイベントと言ってもみんなで手持ち花火をやるだけらしいが、雪広と那波の両社が花火を大量に用意して無料で参加出来るイベントになるらしい。

場所は隣接する砂浜で参加人数は千人を予定してるようだ。

相変わらず太っ腹だとの意見があちこちから聞こえるが、実は季節的にそろそろ花火の売り上げが落ちる頃なので在庫一掃の意味合いもある。

無論両社の在庫だけでは足りずに親交企業などからも花火を大量に買い付けたらしいが、時期が時期なだけに大量に買うことでかなり安く揃えたとの内情は後日横島にも知らされるだろう。


「みんな行って来ていいぞ。 後は俺だけで大丈夫だからさ」

この時間になると出店は千鶴・夏美・茶々丸に加えてまき絵・裕奈・亜子・アキラなどが手伝っていたが、残り時間も二時間を切っておりかなり余裕が出来ている。

すでにフルーツポンチは完成してる物で最後だし、焼き物の方も焼きとうもろこしは完売してしまい後はバーベキューがいくらか残ってる程度だった。

横島はせっかくだからと手伝ってくれてたみんなをイベントに送り出すと、一人で残りの営業を続けることにする。


「生ビール一杯頼むわ」

先程までは手伝いの少女達に加えて店の常連の少女達が出店の付近に居て賑やかだったが、ほとんどイベントに行ってしまい急に静かになっていた。

目の前のステージでもイベントはもう終わっており、残っているのは花火のイベントに行かなかった酒を飲んでる大学生や大人くらいだ。

横島は隣の超包子からビールを買うと、差し入れで貰った食べ物の残りとビールで一人で楽しむことにする。


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