平和な日常~夏~2
正直言うと横島の技術があれば、さよを両親と再会させるのも不可能ではない。
死して冥界に行った魂はやがて転生するが、その前ならば現世に呼び出すことも可能である。
ただし降霊は神族が管轄する冥界から呼び出すのであって、神族に呼び出した者が見つかることを意味していた。
横島はこの世界の神族とは基本的に関わりも蟠りもないが、この世界では失われた降霊術を使うには神族上層部にいろいろ根回しが必要である。
異なる世界の存在や情報を知るのは神族でも限られた存在であり、横島の過去を知るのは最高指導部でも限られた存在だけだ。
いかにさよのためとはいえ、横島も迂闊には出来ないことがある。
「今できるのはこれくらいなんだ。 ごめんな。 でも俺もタマモも一緒に祈るからさ」
自分の無力さなど嫌というほど経験した横島だが、結局力を持ってもそれは変わらない。
力が無ければ他者の力に踏みにじられるが、力があり過ぎても様々な理由から制約が出来てしまう。
加えてさよの生前の記憶は楽しいばかりではなく悲しみや苦しみなど、今まであまり感じなかった感情を呼び起こす可能性が高い。
しかし横島にもタマモと一緒に、さよがそれを乗り越えられるように歩んでやるしか出来なかった。
「横島さん……タマモちゃん……」
そして溢れてくる感情のままただ流されるしか出来ないさよは、横島とタマモに見守られながら両親に感謝をして祈りを捧げる。
ようやく思い出せた両親の顔や表情を胸に抱きながら。
「お父さんとお母さん幸せだったんだ……」
その後帰宅した横島とさよは、部屋の明かりを消したまま窓から差し込むほのかな月明かりの中で静かに話をしていた。
先程までさよを励ますように笑顔を見せていたタマモは、眠気に勝てずにさよのひざ枕でうとうとしてしまい狐形態に戻って眠っている。
横島とさよは帰宅した時に先にタマモを布団に寝かしつけようとしたが、今日は珍しく嫌がり必死に起きていようと頑張っていたのだ。
「お父さんとお母さんは、死ぬまで君の命日には毎年欠かさず来ていたんだってさ。 今でも弟が近くに住んでるから命日には来てるらしいしな」
スウスウと気持ち良さそうに寝息をたてるタマモを、さよは優しく見守りながら横島の話に耳を傾けていた。
喜びや悲しみや寂しさなど複雑な感情が浮かんでは消えていく自身の心を、さよは少し戸惑いながらもなんとか受け止めている。
膝に伝わるタマモの鼓動や温もりが、どれだけさよの悲しみや苦しみを癒し救っているかわからない。
もちろんタマモ自身はそんな自覚はないのだろうが、本能的に何かを感じていたが故に最後までさよの側を離れなかったのだろう。
「ポー」
「これはお酒ですか?」
「飲めってさ」
どれだけ時間が過ぎたかわからないが沈黙が部屋を支配した頃、何故かハニワ兵が突然お酒を持って来て横島とさよに注いでいく。
突然目の前にお酒の入ったグラスを置かれたさよは不思議そうにハニワ兵を見るが、どうやら彼はさよにお酒を飲めと言いたいらしい。
「きっとさよちゃんが思い出したこと両親は喜んでるよ。 こんな日は酒でも飲むのが一番なのかもな」
相変わらず妙に気が利くハニワ兵だが、再びキッチンに向かうと皿が割れるような音がする。
横島とさよはそんなハニワ兵に思わず笑いながらグラスに入ったお酒を口にした。
初めてのアルコールの味は、さよにとって忘れられない思い出の味になるだろう。
死して冥界に行った魂はやがて転生するが、その前ならば現世に呼び出すことも可能である。
ただし降霊は神族が管轄する冥界から呼び出すのであって、神族に呼び出した者が見つかることを意味していた。
横島はこの世界の神族とは基本的に関わりも蟠りもないが、この世界では失われた降霊術を使うには神族上層部にいろいろ根回しが必要である。
異なる世界の存在や情報を知るのは神族でも限られた存在であり、横島の過去を知るのは最高指導部でも限られた存在だけだ。
いかにさよのためとはいえ、横島も迂闊には出来ないことがある。
「今できるのはこれくらいなんだ。 ごめんな。 でも俺もタマモも一緒に祈るからさ」
自分の無力さなど嫌というほど経験した横島だが、結局力を持ってもそれは変わらない。
力が無ければ他者の力に踏みにじられるが、力があり過ぎても様々な理由から制約が出来てしまう。
加えてさよの生前の記憶は楽しいばかりではなく悲しみや苦しみなど、今まであまり感じなかった感情を呼び起こす可能性が高い。
しかし横島にもタマモと一緒に、さよがそれを乗り越えられるように歩んでやるしか出来なかった。
「横島さん……タマモちゃん……」
そして溢れてくる感情のままただ流されるしか出来ないさよは、横島とタマモに見守られながら両親に感謝をして祈りを捧げる。
ようやく思い出せた両親の顔や表情を胸に抱きながら。
「お父さんとお母さん幸せだったんだ……」
その後帰宅した横島とさよは、部屋の明かりを消したまま窓から差し込むほのかな月明かりの中で静かに話をしていた。
先程までさよを励ますように笑顔を見せていたタマモは、眠気に勝てずにさよのひざ枕でうとうとしてしまい狐形態に戻って眠っている。
横島とさよは帰宅した時に先にタマモを布団に寝かしつけようとしたが、今日は珍しく嫌がり必死に起きていようと頑張っていたのだ。
「お父さんとお母さんは、死ぬまで君の命日には毎年欠かさず来ていたんだってさ。 今でも弟が近くに住んでるから命日には来てるらしいしな」
スウスウと気持ち良さそうに寝息をたてるタマモを、さよは優しく見守りながら横島の話に耳を傾けていた。
喜びや悲しみや寂しさなど複雑な感情が浮かんでは消えていく自身の心を、さよは少し戸惑いながらもなんとか受け止めている。
膝に伝わるタマモの鼓動や温もりが、どれだけさよの悲しみや苦しみを癒し救っているかわからない。
もちろんタマモ自身はそんな自覚はないのだろうが、本能的に何かを感じていたが故に最後までさよの側を離れなかったのだろう。
「ポー」
「これはお酒ですか?」
「飲めってさ」
どれだけ時間が過ぎたかわからないが沈黙が部屋を支配した頃、何故かハニワ兵が突然お酒を持って来て横島とさよに注いでいく。
突然目の前にお酒の入ったグラスを置かれたさよは不思議そうにハニワ兵を見るが、どうやら彼はさよにお酒を飲めと言いたいらしい。
「きっとさよちゃんが思い出したこと両親は喜んでるよ。 こんな日は酒でも飲むのが一番なのかもな」
相変わらず妙に気が利くハニワ兵だが、再びキッチンに向かうと皿が割れるような音がする。
横島とさよはそんなハニワ兵に思わず笑いながらグラスに入ったお酒を口にした。
初めてのアルコールの味は、さよにとって忘れられない思い出の味になるだろう。