平和な日常~夏~2
それから数日は穏やかと言うか暇な日が続いていた。
麻帆良市内は観光客で賑わうが、表通りではない横島の店はさほど客が来る訳ではない。
まして付近には観光客が来るような名所もなく、時々どこからか店の評判を聞き訪ねて来る観光客は居るが学生が減った以上に来るほどでもなかった。
そんな最近だが割と好調なのは、やはりスイーツや和菓子である。
店の常連の学生達が帰省の土産にとそこそこ日持ちがする和洋菓子を求めるので、焼き菓子や水菓子などのお土産用の菓子も予約販売していた。
「さすがに今の時間だと涼しいですね」
そしてこの日横島は、さよとタマモを連れて麻帆良市郊外にある霊園に来ている。
時間は深夜の二時であり日中の暑さが少し和らいで涼しい空気が流れていた。
「ここが相坂家の墓だよ」
さて横島達が何故こんな深夜に密かに霊園を訪れたかと言えば、さよが両親の墓参りをしたいと言ったからだ。
この時期世間では墓参りの話題はよく出るしテレビなんかでもやっている。
そんな環境で暮らすさよが、横島に両親の墓参りがしたいと頼んだのはごくごく当然なことであった。
「ご両親は九十五才と九十四才まで長生きしたらしい。 孫もたくさん居て幸せな人生だったみたいだな」
自分や両親の墓を前に何とも言えない表情のさよに、横島は静かに両親のことを教えていく。
さよ自身は今だに生前のことを思い出せてないが、横島やタマモと一緒の幸せな毎日を送る日々の中で自分の両親について気になり出したようである。
横島やタマモの影響もあり霊体が日に日に安定化しているさよは、幽霊特有の思考能力の低下などが改善されつつあった。
今回も形は少し違うが、両親に会いたいと思ったのは自然の流れだろう。
「そうなんですか……」
お線香を焚きお供え物をしてお墓の前にしゃがみこむさよは、横島の話に返事はするが相変わらず表情が冴えない。
横島もまたさよの両親の簡単な情報以外は語ることもなく、しばらく無言が辺りを支配する。
「今だに顔も思い出せないんです。 でも……」
思考能力や感情が豊かになり始めてるさよは、自身の記憶などに関して思い出したいとは思ってる。
しかしいくら霊体や魂が安定しつつあると言っても、そう簡単に思い出せるものではない。
両親の顔すら思い出せない自分がさよは悲しいようだった。
「さよちゃん、ちょっと立ってくれ」
悲しそうなさよにタマモは、側を離れずにまるで励ますように手を握っている。
そんな中で横島はさよを立たせて向かい合うと、静かに視線を合わせた。
「いいか、心を落ち着けるんだ。 リラックスしてくれ」
これから何が起きるのかさよは全く理解しておらず、ただ横島の言葉に従うままに心を落ち着かせていく。
横島はほんの僅かに霊力を高めると、さよやタマモにすら聞こえないくらいの声で素早く言魂を紡ぎ出す。
「……えっ……」
その瞬間、さよには失ったはずの生前の記憶の一部が蘇ってくる。
それはごくごく普通の日常の一端だったが、確かにさよが両親や兄弟と生きた過去の記憶だ。
「さすがに記憶の全部をいきなり戻すのは危険なんで、ほんの一部だけの記憶しか戻せないんだ」
突然蘇った記憶の一部に固まり反応出来ないさよに、横島は少し申し訳なさそうに記憶を蘇らせたことを説明する。
横島にとって失った記憶の復活は簡単なことだったが、さよへの様々な影響を最小限にするには一部しか記憶を戻せなかったのだ。
麻帆良市内は観光客で賑わうが、表通りではない横島の店はさほど客が来る訳ではない。
まして付近には観光客が来るような名所もなく、時々どこからか店の評判を聞き訪ねて来る観光客は居るが学生が減った以上に来るほどでもなかった。
そんな最近だが割と好調なのは、やはりスイーツや和菓子である。
店の常連の学生達が帰省の土産にとそこそこ日持ちがする和洋菓子を求めるので、焼き菓子や水菓子などのお土産用の菓子も予約販売していた。
「さすがに今の時間だと涼しいですね」
そしてこの日横島は、さよとタマモを連れて麻帆良市郊外にある霊園に来ている。
時間は深夜の二時であり日中の暑さが少し和らいで涼しい空気が流れていた。
「ここが相坂家の墓だよ」
さて横島達が何故こんな深夜に密かに霊園を訪れたかと言えば、さよが両親の墓参りをしたいと言ったからだ。
この時期世間では墓参りの話題はよく出るしテレビなんかでもやっている。
そんな環境で暮らすさよが、横島に両親の墓参りがしたいと頼んだのはごくごく当然なことであった。
「ご両親は九十五才と九十四才まで長生きしたらしい。 孫もたくさん居て幸せな人生だったみたいだな」
自分や両親の墓を前に何とも言えない表情のさよに、横島は静かに両親のことを教えていく。
さよ自身は今だに生前のことを思い出せてないが、横島やタマモと一緒の幸せな毎日を送る日々の中で自分の両親について気になり出したようである。
横島やタマモの影響もあり霊体が日に日に安定化しているさよは、幽霊特有の思考能力の低下などが改善されつつあった。
今回も形は少し違うが、両親に会いたいと思ったのは自然の流れだろう。
「そうなんですか……」
お線香を焚きお供え物をしてお墓の前にしゃがみこむさよは、横島の話に返事はするが相変わらず表情が冴えない。
横島もまたさよの両親の簡単な情報以外は語ることもなく、しばらく無言が辺りを支配する。
「今だに顔も思い出せないんです。 でも……」
思考能力や感情が豊かになり始めてるさよは、自身の記憶などに関して思い出したいとは思ってる。
しかしいくら霊体や魂が安定しつつあると言っても、そう簡単に思い出せるものではない。
両親の顔すら思い出せない自分がさよは悲しいようだった。
「さよちゃん、ちょっと立ってくれ」
悲しそうなさよにタマモは、側を離れずにまるで励ますように手を握っている。
そんな中で横島はさよを立たせて向かい合うと、静かに視線を合わせた。
「いいか、心を落ち着けるんだ。 リラックスしてくれ」
これから何が起きるのかさよは全く理解しておらず、ただ横島の言葉に従うままに心を落ち着かせていく。
横島はほんの僅かに霊力を高めると、さよやタマモにすら聞こえないくらいの声で素早く言魂を紡ぎ出す。
「……えっ……」
その瞬間、さよには失ったはずの生前の記憶の一部が蘇ってくる。
それはごくごく普通の日常の一端だったが、確かにさよが両親や兄弟と生きた過去の記憶だ。
「さすがに記憶の全部をいきなり戻すのは危険なんで、ほんの一部だけの記憶しか戻せないんだ」
突然蘇った記憶の一部に固まり反応出来ないさよに、横島は少し申し訳なさそうに記憶を蘇らせたことを説明する。
横島にとって失った記憶の復活は簡単なことだったが、さよへの様々な影響を最小限にするには一部しか記憶を戻せなかったのだ。