平和な日常~夏~2

「わしも海に行きたかったのう~」

そして麻帆良学園女子中等部の学園長室では、近右衛門が目の前の書類の山にため息をついていた。

麻帆良学園と関東魔法協会のトップを勤める近右衛門は相変わらず仕事が多いらしい。

表の麻帆良学園のみならず裏の関東魔法協会も、当然として近右衛門の決裁がないと仕事が進まないのだ。

両組織を合わせると独立国家並みの権力があるだけに、トップである近右衛門の責任と仕事は増えることはあっても減ることはない。

同じ地球側の魔法協会の中では数少ない独立組織として勝ち組だと見られてはいるが、その分近右衛門の苦労は他の魔法協会とは比べものにもならなかった。

那波千鶴子が言うように魔法協会もそろそろ世代交代が必要なのは近右衛門も自覚しているが、そう簡単にいかないのが関東魔法協会の苦しいとこである。

孫と気楽に遊びにも行けない立場に近右衛門はげんなりとした表情を見せながら仕事をしていく。



一方美空と同じ見習いシスターであるココネは、この時魔法世界のヘラス帝国に帰郷していた。

元々彼女はヘラス帝国の人間であり、魔法世界人である。

不完全な世界を構成する魔法の影響で魔法世界から基本的には出られないヘラス帝国人だが、ヘラス帝国の高い魔法技術により実験段階ではあるが地球側へ行けるようになっていた。

実は麻帆良にはココネの他にも数名ヘラス帝国の人間が滞在しており、ココネの他は大人のヘラス帝国人で実質的な外交官の役割を果たしている。

二十年前に麻帆良がメガロメセンブリアから独立して以降、近右衛門はヘラス帝国やアリアドネーなどと協力関係にあった。

関東魔法協会としては独立したはいいが、それを認めてくれる国が無ければただの反乱で終わってしまう。

一方のヘラス帝国やアリアドネーは、地球側との交流をメガロメセンブリアに独占された状況は決して好ましくなかったのだ。

日々発達する地球側の科学技術や情報の一部はメガロメセンブリアに流れ、二十年前の戦争の大きな脅威にもなっていた。

結果として二十年前の大戦後、ヘラス帝国やアリアドネーは麻帆良学園を完全な独立組織と認め双方が外交官を置くことを決めた経緯がある。

なおココネに関しては、麻帆良学園とヘラス帝国の友好促進のために留学生という形で送られた人材だった。

ヘラス帝国が開発した実体化の魔法は一部条件付きながらもアリアドネーにも提供させており、麻帆良学園と両国が交流する大きな力になっている。

まあヘラス帝国には最終的には世界の崩壊から一部の特権階級だけでも逃れる為の実験でもあったが、関東魔法協会としてはメガロメセンブリアに対抗するには両国と交流するしか道はなかったのだ。


少し話が逸れたがココネはヘラス帝国へ親善訪問する関東魔法協会の数人の幹部と一緒に夏休みを利用して帰郷しており、両国の友好の為のパーティーに参加したりヘラス帝国の学校で麻帆良学園の話をしたりと結構忙しいらしい。



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