平和な日常~夏~2

「ほっとけばクジラでも捕まえて来るんじゃないっすか?」

「流石にそれは……」

楓と古菲が捕った魚を捌く横島と刀子だったが次はクジラでも捕まえて来るのではと言う横島に、刀子は流石にそれはないと言おうとするが途中で言葉に詰まってしまう。

あの二人ならその気になれば不可能ではないだろうと考えると素直に笑えなかったらしい。


「それにしても包丁の使い方上手いっすね」

そのままテキパキと魚を捌く横島と刀子だったが、刀子はかなり包丁の使い方が上手かった。


「私も人並みに料理はしてるのよ」

横島は素直に褒めただけだが、刀子はそれでもまだ横島の方が包丁の使い方が上手いのがどうしても気になってしまう。

別に競ってる訳ではないし本人は認めないがプロとして店を持つ横島と比べても仕方ないのは分かっているが、なんとなく気になるようである。


(全く女が苦手な訳ではないみたいね)

そんな刀子だが料理の腕前以外ではいい発見も少しあった。

実は先程から時々横島の男性特有の視線を感じるのだ。

女が苦手だと噂されており今まではそんな視線がなかっただけに、刀子としてはそれはいい発見だったようである。

最も横島にしてみれば、麻帆良に来て以来その手の視線を女性に向けないように気をつけてはいたのだが……。

かつては散々それで嫌われただけに半ばトラウマになっており、出来るだけ紳士的に振る舞おうと努力はしている。

しかし水着の美人が隣に居れば見てしまうのが男の性であった。

横島としてはその気になれば透視でさえも簡単に出来てしまう能力があるだけに、それだけは絶対してはならないと心に決めている

まあその分普通に見る分には多少は楽しんでしまうらしい。

何も考えずに生きていた昔が少し懐かしくなる横島だが、せっかく麻帆良では上手く行ってるだけにまた昔のようにモテない変態扱いはゴメンだった。



さてそんな二人が作ったのは、刺身と焼き魚の二品だった。

刺身向きの魚はそのまま刺身にしたが刺身に向かない魚も少しあったので、そちらはフライパンで簡単に焼いてソテーにしたらしい。


「盛り付け見るとやっぱりプロなの実感するわね」

短時間で簡単に作った魚料理は特別な料理ではないが盛り付けはやはり素人とは違ったらしく、刀子のみならず海の家の人も驚き見に来ていた。

短時間にも関わらずちょっとしたお造りのようになっているのだ。

ソテーした魚も有り合わせの調味料で簡単なソースを作っており、その作業は途中から注目を集めてしまう。


「盛り付け一つでインパクトが違いますからね」

刀子も横島の店にはよく通っておりその実力は理解しているが、目の前で調理する姿を見ると改めて並の腕前でないのだと実感する。

一見すると成人か学生か悩むような容姿からは想像も出来ない腕前なだけに、海の家の人達が驚いてるのも無理はないと思う。

そのまま横島と刀子は出来上がった料理を持って戻っていくが、海の家の人達は横島が何歳なのか噂をすることになる。

てっきり学生と年上の彼女にしか見えなかった二人だが、刀子が横島をプロだと言ったことで見た目に反して結構年齢を重ねてるのではと噂してしまう。

どうでもいい話ではあったが、海の家の人は決してプロの料理人ではないのでその程度の興味しかないらしい。



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