平和な日常~夏~2

そのまま砂浜に降りたタマモは波打際に立ち海水に足を入れてみるが、やはりとても不思議そうな表情をしていた。

一方のもう一人始めての海水浴であるさよだが、こちらはすでに海に入っており楽しそうにしている。

流石に深い場所には行かないが、腰くらいまでの深さの場所で複数の少女達と水を掛け合うなどしていた。

タマモと対照的に割とあっさり馴染んださよだが、実のところタマモとさよの二人は海水浴についてハニワ兵に教わっていたりする。

まあ教わると言うほどのことは教えてはないが、この季節よくテレビで海水浴場が入るので二人は基本的なやることなんかを聞いていたのだ。


「一応浮輪も持って来たんだけど要らなかったか」

さよや他の少女が楽しそうな姿にタマモも混ざりたくなったのかようやく海に入って泳ぎ出すが、タマモの泳ぎはもちろん犬かきだった。

まあその辺りは本能の成せる技なのだろうが、当然他の泳ぎは出来ない。


「タマちゃん泳ぐの上手や」

そんな泳ぎ始めたタマモだが、木乃香を始めさよや他の少女の注目を一身に集めていた。

特別注目を集める理由はないのだが、始めての海水浴に来たタマモが気になるのはみんな同じらしい。


「ところでアスナちゃんは高畑先生のとこに行かなくていいのか?」

「無理無理無理……」

いつの間にか木乃香達と一緒にタマモを見守っていた明日菜に、横島はせっかくだから高畑と一緒に居ればどうだと告げるが本人は顔を赤らめと無理だと連呼する。

高畑は近くで鳴滝姉妹や古菲に絡まれているが、明日菜は恥ずかしいというか落ち着いて一緒にいれないらしい。


「そんなんじゃ誰かに盗られちゃうわよ」

「いい車乗ってるし年上とかには人気がありそうよね」

相変わらず高畑の前だと緊張してダメな明日菜を美砂や円はからかうが、明日菜は慌てるばかりで行動に移せなかった。

実際高畑はさほど異性として生徒に人気があるタイプの教師ではないが、全くモテない訳でもないのだ。


「その割には浮いた噂の一つもないのよね」

「あのタイプは仕事が恋人なタイプだからな。 仕事一筋なんだろ」

年頃という訳ではないが、教師とはいえ一人の人間だし色恋沙汰の噂の一つや二つは流れるのが普通である。

現に刀子は横島と噂になったし、美砂達は高畑に恋愛関係の噂が全くないことが不思議らしい。

そんな美砂達の言葉に横島はチラリと高畑に視線を向けると、高畑の過去を思い出し仕事人間なのだろうと告げる。


(あの人は自分の人生を楽しむ余裕なんてないんだよ)

横島の言葉に教師の仕事やボランティアで忙しい高畑を知る明日菜や美砂達は納得したように頷くが、横島自身は高畑の気持ちというか心情を理解はするが流石に少女達には言えなかった。

ネギの件では高畑の行動が危険だと考えていた横島だが、高畑が個人的に嫌いな訳ではなくむしろ共感する部分すらある。

価値観や手法は横島とは全く違う人間なのは確かだが、一言で言えば高畑の戦争は二十年前から続いたままなのだ。


(ある意味、俺は恵まれていたのかもな)

失った命と残された世界の為に必死に戦う高畑の姿を、横島は自身の過去と重ねてしまう。

横島の場合は度重なる奇跡と仲間達の執念とも言える想いから決着を付けるだけの力を得ることが出来たが、高畑にはそれがないのだ。

今も残された者の苦しみや自らの無力さからの苦しみを生きる高畑が、少し哀れに感じていた。



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