平和な日常~夏~2

「今日は星が綺麗に見えてますね」

「うん、きれい」

その後近右衛門が帰り横島が店の後片付けを始めた頃、さよとタマモとハニワ兵は三人並んで屋上で星空を眺めていた。

夏の蒸し暑い夜もようやく僅かに涼しくなって来た頃、たまには星を見ようとさよがタマモとハニワ兵を誘ったのだ。


「ちょっと前まで、毎日一人でこうして星を見てたんですよ。 誰も私を見えなかったので……」

ネオンや看板がない麻帆良の夜は独特の雰囲気があるが、都内などと比べると星もよく見える。

夜の闇の恐怖から逃れるように毎晩コンビニやファミレスの外観に朝まで居たさよは、一人で星空を眺めることが多かった。

特に星が好きな訳でもなく、永遠に流れていく時間の中で他にすることがなかったのだ。


「こうしてタマモちゃんやハニワさんと一緒に星を見れて、今の私は本当に幸せです」

以前の日々を思い出して一人語るさよを、タマモとハニワ兵は静かに見つめていた。

寂しさや嬉しさなど複雑な感情が溢れるさよに、タマモとハニワ兵はどう言葉をかけていいかわからない。

ただ一つ言えるのは、今の生活が一日でも長く続いて欲しいと願う気持ちは同じだということである。


「わたしもひとりはイヤ。 ずっといっしょがいい」

いつか別れの時が来るかもしれないと考えると寂しさが込み上げて来るさよだが、そんな感情を感じたタマモはずっと一緒に居たいと言い切る。


「本当にずっと一緒ならいいね」

タマモの優しさと気持ちに思わず熱いモノが込み上げて来るさよだったが、ハニワ兵はスケッチブックに文字を書きながらさよにずっと一緒に居られるから大丈夫だと言い切っていた。

さよはそれもハニワ兵の優しさだと感じてありがとうと告げるが、実はずっと一緒に居ることが全然難しくないことだとハニワ兵だけは理解している。

全ては横島次第であり、そもそも横島本人はさよとタマモを手放すつもりは全くないのだから。

それにさよに関しては店の仕事などで手が離せない時や夜などに、タマモを見ていてくれており横島は本当に感謝していた。

加えてこれはまだ誰にも言ってないが、横島は夏休み明けにさよを2-Aに新たな転入生として実体化したまま通わせられないかと考えている。

これに関しては近右衛門に頼むしかないが、おそらく大丈夫だろうと横島は考えていた。

横島としては日頃のさよの行動へのお礼とちょっとしたサプライズのプレゼントのつもりなのだが……。


「そろそろお風呂に入って寝ましょうか」

そのまましばらく星を見ていた三人だったが、タマモが眠くなる時間が近付いて来たのでさよはタマモとハニワ兵を連れて家の中に戻っていく。


「えっ、さよちゃんがずっと一緒に居れるようにして欲しいって?」

家に入ったさよとタマモはお風呂に入るが、ハニワ兵はその隙に一階の横島の元に行きさよの件を頼んでいた。

突然妙な頼みをするハニワ兵に元々さよを昔のように一人にするつもりがない横島は不思議そうな表情をするが、先程の会話などをハニワ兵が説明すると横島も納得したような表情に変わる。


「心配せんでも一人にするつもりはないよ。 友達も増えて来たしさよちゃんが昔のような孤独に戻るようなことにはしないって」

ハニワ兵にとって横島は創造主であり神のような存在だ。

横島にはそんな自覚はないが、横島の言葉を聞いたハニワ兵は嬉しそうに二階に戻って行った。





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