平和な日常~夏~2

「中武研の古菲が始めての相手とは思わなかった。 ウルティマホラ優勝の腕前見せて貰おうか」

横島達や周りのやじ馬が見守る中、豪徳寺は古菲との対戦が楽しみで仕方ないような表情であった。

古菲が注目を集めたのは昨年の秋の体育祭の格闘大会ウルティマホラなのだが、あいにく豪徳寺は出場してない。

どうやらいつかは手合わせしたいと考えていたようである。


「五千円は頂きアル」

一方の古菲はちょっとした小遣い稼ぎのつもりだった。

豪徳寺が結構強いのは感じていたが、こちらも2-Aが誇る格闘バカであり強い相手と戦って小遣いが稼げるなんて夢のようだと喜んでいる。

そんな二人の勝負は古菲からの攻撃で始まっていた。

横島達を含めて結構な観客が居るが二人は気にすることなく勝負を始める。

周りでは勝手に勝敗を予想して賭けが始まってしまい、いつの間にか両者を応援する者が居るなど騒がしくなるが勝負は古菲のペースであった。


「やっぱ総合的には古ちゃんが有利か」

見た目と同じく実戦慣れしてる豪徳寺は空手を主体に自己流の戦い方だったが、実戦慣れしてるのは古菲も同じであり八卦掌や形意拳を主体に押している。

何よりスピードだけではなくパワーも豪徳寺より上なのだから、見た目以上に鍛えているのは明らかだった。


「流石はチャンプか……。 ならばこちらも奥の手を出そう!」

戦いが続けば続くほど古菲が有利になるのを悟った豪徳寺は、一旦距離を開けると意を決したように奥の手を出すと告げると構えを変える。

それは一見すると空手の正拳突きのような構えだが、古菲との距離は三メートルは離れており届く距離ではない。


(おいおい……)

その瞬間、横島は豪徳寺のやろうとしてることを理解して顔が引き攣ってしまう。


「超必殺、漢魂!!」

なんと豪徳寺は高らかに技の名前を叫ぶと、練り上げた気を拳に集中させて打ち出していた。

その威力は決して強力ではなく、正直当たっても古菲ならばダメージにならない程度でしかない。

気の扱いもなんとか扱ってるという段階であり決して上手くはないが……、問題は衆人の目の前で気を使ったことだった。

突然豪徳寺が放った気弾に横島や木乃香達はただポカーンとしてしまい、タマモとさよはぱちぱちと拍手をしている。

正直、横島と周辺に僅かに居る魔法関係者を除いて周りの人達は何が起きたのか理解してない。

観客からはビームだとの声が上がったかと思えば、カメ〇メ波だと騒ぐ連中もいる。


「……今のは何アルカ!?」

一方の漢魂を受けた古菲だったが、対したスピードもない気弾だったので突然簡単に避けてしまった。

しかし古菲の驚きもまた大きかったようで豪徳寺に今の技の説明を求める。


「今のは漢の魂を込めた超必殺技、漢弾だったのだが…… やはりまだ未完成だったか。 文献をヒントに人間の神秘の力、『気』の使い方を覚えたんだがな」

見たこともない不思議な技に目を輝かせる古菲に豪徳寺は気の存在を教え技を説明するが、周りの観客は信じられない者や騒ぐ者など反応は様々だった。


(偶然って怖いな……)

そして横島は木乃香達が魔法の一端に関わる現象を意図せずに目撃してしまったことで、渇いた笑いを浮かべるしかできなかった。

まさかこんな衆人の前で、気を使うバカが居るとは横島も思いもしなかったようである。



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