平和な日常~春~

一方進級して二年になった木乃香達だったが麻帆良学園中等部ではクラス替えなどもないし、教室も三年間同じである為にさほど実感もないまま進級していた

唯一変わった事と言えば横島の喫茶店が開店した事と木乃香がバイトを始めたくらいだったが、喫茶店には珍しく中学生でも入りやすい店だと噂になるくらいである

現在麻帆良では昔ながらの喫茶店の数自体が少なく、ファーストフードや全国チェーンのコーヒーショップなどが多くあり、そちらの方が彼女達には身近な存在だった

個人経営の多い喫茶店では彼女達のような中学生ではどうしても入りにくい感じがあったり値段が高かったりするのだが、横島の店は値段もファーストフードより安くサービスも満点で彼女達でも気軽に入れる唯一の喫茶店だったのである



「今日の木乃香とアスナのお弁当豪華ね」

新学期も始まった初日、お昼休みになり2ーAの教室では木乃香・明日菜・夕映・のどか・ハルナがお弁当を囲んで昼食にしていた

木乃香と明日菜の弁当を覗き込んだハルナは、いつもと違う木乃香の弁当に気付きさっそく箸を伸ばしていく

麻帆良学園では基本的に昼食は自由だった

中等部校舎内には専用の食堂もあるし、校舎から少し離れた場所には麻帆良学園共通の食堂棟もある

2ーAのクラスメート達は食堂で食べたり弁当を持参する者などそれぞれ違うが、料理好きな木乃香はいつも自分と明日菜の分の弁当を作って来ていた

一緒に弁当を食べてる夕映達だが、実はのどかが木乃香と同様に料理が好きなので彼女達三人も木乃香ほど毎日ではないが割と弁当を持参する事が多い


「横島さんから習ったオレンジソースを作ってみたんよ」

鶏肉のソテーにオレンジソースで味付けした物を中心にサラダなどを盛り付けされた木乃香と明日菜の弁当は、見た目からいつもと一味違うものだった


「ウマッ! 木乃香腕を上げたわね」

「占いは教えてくれへんけど、料理はすぐに教えてくれるんよ。 簡単でわかりやすいんや」

驚くハルナに木乃香は嬉しそうに微笑み、最近のバイトの様子を語っていく

やはり横島は占いを教えてないが、料理は比較的簡単に教えるらしい

横島は木乃香に基本的な料理を簡単に教えていたが、あまりレシピにこだわらないで自由にアレンジすればいいと割と適当な感じだった

結局木乃香は基本的なポイントを抑えたまま自由に料理を作っていたが、それが美味しいのだから彼女は料理のセンスもまた高いようである


「本当に分からない人よねー 料理なんてしそうに見えないのに……」

横島と出会って一番変わったのは木乃香の料理のレパートリーだろう

明日菜はその原因たる横島を思い出して不思議そうに首を傾げていた

見た目や態度から高校生くらいにしか感じられないのだが、時々変に凄いのだから何か違和感があるようだ


「というか年はいくつなのでしょうか? 料理の経験があるのはバイトでしょうか? あの人の疑問を考えるとキリがないです」

住所不定で放浪していたかと思えば、占いを始めてみたり宝くじが当たったからと喫茶店を始めた

しかも占いと料理は見た目と違和感があるほど上手いのだから、夕映は考えれば考えるほど横島が分からなくなる気がする

素直に凄いと褒められないのは、普段の態度がその辺りに居る学生と変わらないからか……

結局木乃香達は弁当を食べつつ横島の事を噂していく


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