平和な日常~夏~2

その後近右衛門が帰ると、横島は店を閉めて掃除や後片付けを始めた。

タマモはすでに二階で眠っており、さよはタマモに付き添っている。

横島自身は厨房やフロアの掃除から始めて、ドジなハニワ兵には地下室の掃除を頼んでいた。

基本的に自分で出来ることは自分でする横島だが、無駄に広い店を一人で掃除するのは時間がかかって無理だった。

現在地下は食料貯蔵庫として使っており穀物や酒類などが置かれてはいるが、それでも広い地下のほとんどは開きスペースである。

食料貯蔵や物置としては便利な地下だったが、異空間アジトがある横島にとっては正直さほど使い道がなかった。

まあ一応保存が可能な穀物や酒類をある程度置いてはいるが、掃除の苦労の方が大変なようだ。



「誰だ、このガキは?」

そんな訳でフロアの掃除をする横島だったが、この日は老人の姿をした人型ボディの土偶羅が来ていた。

土偶羅は横島に幾つかの報告を済ませると外人らしき子供の写真を見せる。


「ナギ・スプリングフィールドの息子だ」

「へ~、言われてみれば親父にそっくりだな。 ムカつくほどイケメンになりそうだ」

写真の子供はネギだった。

父親であるナギに似てイケメンになりそうな子供に、横島は露骨に嫌そうな顔をする。


「しかしあれだけ魔法協会を引っ掻き回したのがこんなガキだとはな」

「致し方あるまい。 例の王家の生き残りであり英雄の息子だ。 英雄を地に落とした連中からすれば早く殺したいだろう」

無邪気な笑顔のネギの写真を見て横島は複雑そうな表情を浮かべた。

何も知らない子供の行く先が、魔法世界と地球の魔法協会を混乱させたのだから何とも言えない気持ちになる。

子供に罪はないと皆が思うが、巻き込まれた側はたまったものではない。


「そのまま何も知らないまま生きた方が幸せなんだろうな」

ネギには何の罪も落ち度もないが、ネギが生きるにはこのまま何も知らない方がいいのではと横島は感じる。

知ったところで過去は変わらないし、下手に知って親の名誉回復や母親の祖国奪還など考えたら始末に終えない。

実のところ土偶羅もまたネギと祖父の行動を監視しており、その行く先を気にしていた。


「この二人がもしもアスナ姫を求めたらどうする?」

さて土偶羅がわざわざ報告に来た理由は、ネギと祖父の今後への対応だった。

ネギは何も知らないが、祖父は恐らく明日菜の存在を知っているのだ。

今のところ可能性は限りなく低いが、何かがきっかけで彼がアスナ姫を求めて来る可能性は否定出来ない。

孫の幸せの為には対魔法世界の切り札であるアスナ姫を確保したいと考えても不思議ではない。


「アスナちゃんを利用しようとする連中を許すつもりはないよ」

その言葉を聞くと土偶羅は無言のままその場から姿を消した。

横島と土偶羅にそれ以上の言葉は不要なのである。


「英雄の息子が道を間違わんことを祈るしかないか……」

土偶羅が消えた店で横島は、明日菜を救ったナギの息子が道を間違わないことを密かに願う。

正直ナギの行動には疑問も多いが、彼が人生を賭けても一人の少女を守りきったことは尊敬もしている。

そんなナギの息子のネギがどう成長するのか、それが横島は少し気になっていた。


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