平和な日常~夏~2

それから横島は店を木乃香に任せ、千鶴を占いの時に使っている個室に連れて行った。

そこは二つある個室のうち小さい方の個室だが、テーブルが一つに椅子が二脚と完全に占いや相談などにしか使ってない部屋である。

飲み物をサービスで出した横島は、千鶴の向かい側に座ると悩みを話してくれるのを静かに待つ。

この辺りは横島らしくないほど手慣れた感じもあるが、麻帆良に来て以来占いで少女達の悩みなどを聞いて来ただけに流石に慣れている。

元々昔と違い見ないように気をつけても相手の大まかな感情などが見えるだけに、相手が話しやすい環境を作るのは割と慣れているらしい。

「困ってると言い切るほどのことではないんです。 ただ……」

しばらく無言で微妙な表情をしていた千鶴は考えを纏めたらしくようやく悩みを語り出すが、それでもなお言葉を選んで慎重に話しをしていく。


(意外と不器用なんだよな)

あやかと同じく才色兼備と言う言葉がピッタリな千鶴だが、意外と不器用だという印象が横島は強い。

確かに同年代に比べると精神的にも肉体的にも成熟してはいるが、同時に精神的に成熟し過ぎている分だけ損をしてる印象があるのだ。


「耳が痛い話だな。 俺もどっちかと言えばそっち側の人間だし」

近寄って来る男性への苛立ちは、千鶴本人の思ってる以上にストレスになっていた。

加えて千鶴は自分を年相応以上に見られることを、やはり本心ではあまり望んでいない。

無論彼女の面倒見の良さや母性本能などはあるが、どうも男性に年相応以上に見られるのは好まないようである。

正直千鶴を年相応に扱ってる男性は横島だけだった。
千鶴を口説く男性は決まって千鶴を年以上に扱うのだから。


「もしかすると私は贅沢なことを言ってるのかも知れません。 それでも私は……」

自分の立場や状況など、千鶴はいろいろなことを考えると素直に愚痴もこぼせなくなるらしい。

昔から世間一般の常識など気にもしなかった横島とは正反対の性格だった。


「もっと自由にしていいと思うけどな。 まだ中学生なんだしさ。 まあ迷惑な野郎に関しては何か手を打つ必要はあるがな」

なかなか一概には結論のでない千鶴の悩みに、横島はとりあえず彼女のストレスになっている男性の問題を解決するのが先決かと思う。

正直横島としては千鶴がもう少し自由に生きてもいいのではと感じるが、それには彼女が自由になれる環境が必要かとも思うのだ。


「何かいい考えがあるのですか?」

「考えってほどじゃないけど、単純に千鶴ちゃんにバカが安易に告白出来んような虫除けは必要だろ」

千鶴は意味深な笑みを浮かべて語る横島を驚きと共に静かに見つめていた。

正直今回は横島に何かを期待した訳ではなく、少し話を聞いて欲しかっただけなのだ。

麻帆良祭で迷惑を掛けた横島を再び巻き込むつもりなど千鶴にはない。

ただ…、心の中にはこのまま甘えたいとの願望があるのも確かである。

あの日、ストーカー達から助けてくれた時の有無を言わさぬような力強さが千鶴は忘れられなかった。




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