平和な日常~夏~2

一方横島はこの日もいつものようにマッタリとした営業をしており、カウンター席の隅ではタマモが絵本を読んだり塗り絵をしたりと楽しそうにしている。

朝の忙しい時間を過ぎると常連の客などがぽつぽつと訪れる程度であり、相変わらず暇だった。

客の大半が学生であり他は近所の住人くらいなので、基本的に新規の客が少ないのが横島の店の特徴である。

元々立地条件もあまり良くなく、赴きのある建物も微妙に新規の客には敷居が高い印象があるらしい。


「合計で五百八十円になります」

そんな横島の店だが、相変わらず売れ行きがいいのはスイーツであった。

新規の客の大半がスイーツを持ち帰りする客であり、現在の店の売り上げのかなりの部分を担っている。

正直固定客の学生があまり利益になってないだけに、スイーツの売り上げが店の収支に多大な影響を与えていた。

噂を聞き付けてスイーツを買いに来た客の中にはケーキ屋だと勘違いして店をなかなか探せなかった客もたまに居るらしく、加えてショーケースの一つもない店内を見て戸惑う客も少なくない。


「そろそろなんとかしなきゃダメかな?」

新規の客にケーキを販売した横島は、そろそろ持ち帰り販売にきちんと対応する時期なのかと少し考え始める。

持ち帰り販売の客も基本的には現物を見てから買いたいという客が多いので、横島は毎回冷蔵庫からスイーツの現物を持って来て見せていたが少々めんどくさかった。

元々横島は店を始める時にはスイーツの持ち帰り販売など考えてなく、気の向くまま客の要望に合わせていた結果が現状なのだ。

入口付近にスイーツ用のショーケースが必要かと横島は悩み始める。


「ケーキ屋になるつもりは無かったんだがな~」

好きな料理を気の向くまま作りたいのが横島の本音なのだが、客の需要も当然考える必要があった。

ただ客の方も何度か来て慣れてくると横島に合わせており、常連の客なんかは電話で今日のスイーツを確認する者も居るし、中には日にちを指定して特定のスイーツを注文する客まで存在する。

注文に関しては流石に一個単位だと大変なので、一ホール以上だと注文も受け付けていたのだ。


「どう思う?」

「すいーつは美味しいから好き」

コーヒーを飲みながら悩む横島は塗り絵をしていたタマモに意見を聞くが、タマモは横島が何が聞きたいのか理解しておらず自分はスイーツが好きだと主張するしか思い付かなかったらしい。


「後で木乃香ちゃん達が来たら相談するか……」

正直ショーケースくらいは置いてもいい気もする横島だったが、昔ながらの洋食屋の内装にショーケースは微妙に合わない気がするのだ。

懐かしさと落ち着くこの内装は結構人気で、下手に改装などしない方がいいほど評判がいい。

基本的にインテリアなどのセンスなんかはイマイチ自信がない横島は、木乃香達に相談という名目で丸投げするつもりらしい。

土偶羅に対してもそうなのだが、横島は自分より向いてると思えば丸投げするのが好きだった。


16/100ページ
スキ