平和な日常~夏~2

「忙しいのはワシだけじゃないからのう。 じゃがボーナスと夏休みくらいは皆に出せる目処がたった。 それが唯一の救いじゃよ」

微妙に愚痴っぽい近右衛門に横島は同情するように苦笑いを見せるが、近右衛門はそれでもピークは過ぎたといいボーナスと夏休みを用意出来たことに心底ホッとしているようだった。


(そういえば麻帆良祭の臨時ボーナスが出るって噂があったわね)

そんな近右衛門の言葉に刀子は最近噂になっていた麻帆良祭の臨時ボーナスの噂を思い出す。

どこから情報が漏れたのかは知らないが、今年の麻帆良祭は例年以上に忙しかった魔法協会員達に臨時ボーナスが出るとの噂がここ最近広がっていたのだ。

大半の魔法協会関係者はデマだと笑い飛ばしていたが、どうやら本当らしいとの事実に刀子は内心驚きを感じている。


「そりゃよかったっすね」

「刀子君を始めみんなよく働いてくれるからのう。 ワシも働かんと示しがつかんかわい」

横島は近右衛門を労りつつ相変わらず遠慮のない会話を続けているが、刀子はトップも楽ではないと改めて感じていた。

実際関東魔法協会にも世のため人のためとの理想を掲げて働く者は少ないながら存在するが、大半は報酬や休暇は普通に求める人材である。

それに近右衛門自身が、あえて理想のために魔法協会員にならない者を積極的に受け入れて来た過去があった。

正直な話下手な理想を持たない者の方が組織としては扱いやすくて助かると、近右衛門が以前にちらりと漏らしたのを刀子は覚えている。

世のため人のためとの理想は素晴らしいが、理想も過ぎると害悪に成り兼ねないと近右衛門が以前に悩んでいたのだ。

そのまま横島は刀子と近右衛門の両者と話をしながら徐々に話は三者に広がるが、刀子としては正直近右衛門に対してどこまで無礼講でいいのか悩んでしまう。


「刀子君も若いのに仕事ばっかりさせて申し訳ないのう。 そうじゃ見合いでもせんか?」

「えっ……?」

横島が上手く乗せたのかお酒が入って気分がよくなったのか、若干機嫌が良くなって来た近右衛門は何故か刀子にお見合いを勧め始める。

突然の話に戸惑う刀子だが、どうやら近右衛門は人にお見合いをさせるのが好きらしい。


「ダメッすよ、学園長先生。 今時の美人にお見合いなんて。 それに木乃香ちゃんもおじいちゃんがお見合いをさせようとするって、結構本気で嫌がってましたよ」

最初は冗談っぽく話していた近右衛門も次第に乗り気になって来たのか具体的な話をしそうになるが、正直あまり気が進まない様子の刀子を見て横島が止めに入っていた。

実は近右衛門のお見合い好きな噂は木乃香から聞いて横島も知っていたらしい。


「そうかのう。 それじゃ横島君どうじゃ? 若くていい子がおるぞ。 一緒に店を切り盛りしてくれそうな子とお見合いせんか?」

「俺っすか!? いや~、流石に明日が知れぬ身としてはお見合いする訳には……」

横島に止められ刀子の反応もイマイチなことから近右衛門はお見合いを勧める対象を突然横島に切り替えるが、まさか自分に来るとは思って無かった横島は珍しく慌ててしまう。

ちなみに横島にお見合いを勧め始めた近右衛門に刀子が僅かにムッとしたのだが、珍しく慌ててしまった横島は気付かぬままだった。



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