平和な日常~夏~2

散々騒いだ女の子が落ち着いて帰った後、店内には再び平和が戻っていた。

この日は前日に新メニューに加わったソフトクリームがよく売れており、木乃香達はソフトクリームを作る練習をしながら手伝っている。

この日も結構お客で賑わっているが、基本的に女子中高生が客の大半な為に客単価はそれほど高くはない。

飲み物やソフトクリームだけを頼んで、一時間や二時間ほどおしゃべりしてる女の子達も少なくないのだ。

まあ無駄に広い店内なので、さほど困る訳でもなく横島は嫌な顔一つしないが。



そしてこの日も賑やかなまま時間は過ぎて行き、夜になるとタマモは二階でさよやハニワ兵とテレビを見ていた。

横島は相変わらず一人で余り物の食材をつまみに酒を飲み始めるが、この日は夕食に刀子が来ている。

特にたわいもない話をしながら食事の時間が続くが、刀子の食事が終わりお酒に切り替えた頃になると今度は偶然近右衛門がやって来た。

基本的に同じような時間帯に来店してる二人だが、実は店で会ったのはこの日が始めてだった。


「わしにも一杯くれんかのう」

近右衛門が来店すると今まで柔らかかった刀子の表情が一気に仕事用に切り替わるが、近右衛門は楽にしていいからとの仕草をすると刀子もそれ以上何も言わない。

なんとなく邪魔したかと感じた近右衛門だったが、ここで出ていく訳にも行かずにとりあえず刀子から二~三席離れた同じカウンター席に座るといつものように軽く飲み始める。


「夏と言えば焼き鳥とビールなんっすけどね~ 流石に炭火の焼き鳥を焼くのは大変で」

刀子や近右衛門にも横島が食べてるような適当なつまみを酒と一緒にサービスで出すが、横島としては夏はビールと焼き鳥がいいと少し残念そうだった。

相変わらずな横島に刀子と近右衛門は微妙に苦笑いを浮かべるが、流石にそこをつっこむほどはしないらしい。


「それにしても、相変わらず忙しそうですね。 過労死しますよ」

「代わってくれる人が居るなら代わって欲しいくらいじゃ」

刀子と近右衛門の微妙な空気を察知した横島は積極的に両者に話しかけていくが、別に刀子と近右衛門は仲が悪い訳ではない。

それどころか魔法協会内部でも刀子は近右衛門が最も信頼する仲間の一人なのだが、この二人はプライベートでの関わりが皆無だった。

年齢が離れてることが一番の理由だが、元々神鳴流と近衛家は主従のような関係でもあるのでプライベートで仲良くとは行かなかったらしい。

まあ近右衛門がプライベートで交流がある若手は高畑くらいであり、ある意味普通のことではあるのだが……。

さてそんな刀子だが、近右衛門と横島の会話に少なからず驚きを感じている。

横島が変わってるのは今に始まったことではないが、近右衛門に対しても全く緊張も遠慮もないとは思わなかったようだ。

しかも近右衛門も割と砕けた感じで答えており、普段ならば冗談でも言わないようなことを言っているのだから。

まあよくよく考えれば喫茶店のマスターとしては特別おかしな行動ではないが、麻帆良に住み裏を知る人間で近右衛門とそれほど親しく話す者は決して多くはないのである。



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