平和な日常~夏~

一方店に戻った横島は中等部で騒ぎになってる事など知るはずもなく、いつも通りのんびりと店を営業していた

そんなこの日の日替わり限定メニューはミラノ風カツレツであり、昼食を食べに来ている客達を喜ばせている

朝食と昼食はそれぞれに常連客が多いが昼食の常連客の大半は日替わりメニューを楽しみにしてるらしく、電話でメニューを確認する客も居るくらいだった

最近は以前には少なかった主婦層の客もぽつぽつと増えて来ており、着実に客数と売り上げが増えている

最も現在も売り上げの主力がスイーツなことには変わりなく、中でも持ち帰り客が売り上げの大半を占めてる件は喫茶店としては微妙な結果なのだが……

何はともあれお昼のランチタイムの時間はそこそこ混雑しており、横島は厨房と店内を忙しそうに行ったり来たりしている


「いらっしゃいませ。 ……お仕事っすか?」

そんなお昼の時間も終わりに近付いた頃、スーツ姿の雪広清十郎が一人で来店していた

一瞬会長と呼びそうになる横島だが、余計な注目を集めるのはまずいだろうと思い言葉を飲み込む


「頼まれてちょっとした昼食会に顔を出して来たんじゃが、周りの空気や視線に嫌気が注してのう。 食事もゆっくり食えんかったんじゃよ」

やはり余計に目立つのは好きではないらしく、清十郎は驚きの表情を見せる横島に楽にして欲しいとの仕種をする

そのまま多少苦笑いを浮かべた清十郎は来た理由を話すが、どうも仕事上の付き合いで行った昼食会が合わなかったようだ


「大変でしたね~ ご注文は何にしますか? 簡単な物ならメニューにない物でもいいっすよ」

「すまんがお茶漬けを頼めるか?」

多少疲れが見える清十郎だが、肉体的な疲労というよりは精神的な疲労のようである

実は頼まれて行った昼食会はとあるスポーツのOB達の昼食会で、清十郎は資金援助やそのスポーツの発展の為の協力を期待されていたのだ

正直清十郎の場合は雪広グループ会長という立場上、この手の話は腐るほどくるので一々対応はしてない

今回は知人に頼まれて出席はしたらしいが、あまりに露骨な空気や視線に嫌気が注したのが精神的な疲労の理由だった

ちなみに清十郎自身はスポーツは見るのもやるのも好きなのだが、当然ながら好き嫌いとお金は別問題である

そもそも企業としても個人としても、回収の見込みがないようなスポーツに資金を援助するなど簡単に出来るはずがないのだ


「お待たせしました」

「この梅干しは美味いのう。 塩加減がちょうどいい」

しばらくして横島がお茶漬けとしてご飯に梅干しと焼き鮭に漬物を持って来ると、清十郎は美味しそうにかきこみながらお茶漬けを食べはじめる

梅干しに関しては異空間アジトでハニワ兵が漬けた物の中でも素材が普通程度の物なので、さほど高級品ではないのだが清十郎は美味しそうに食べていた

まあ確かに食べ頃の美味しい梅干しではあるのだが、やはり彼は庶民的な味が好きなようである


「食事は楽しく食べるのが一番じゃな」

どうもよほど今日の食事会が嫌だったらしい清十郎は、お茶漬けをお代わりして機嫌よく帰って行った



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