横島君のお店開店

喫茶店の一日はゆっくりとした物だった

朝は近所の住人や仕事に行く前のサラリーマンなどが朝食を食べに訪れる事が多い

他より一割安い値段の割には美味しい軽食に、徐々にだが客が付き始めている

当初は通常のメニューには和食の朝食は無かったが、サラリーマンなどの要望により現在は和食の朝食ランチも始めていた

メニューはご飯・味噌汁・焼き魚に簡単なおかずなどで、おキヌや小竜姫の記憶にある一般的な家庭料理を再現したのだが、朝食は下手に凝った料理よりも評判がいいようである

メニューに関しては頼まれれば気軽に答える横島なだけに、近所の住人や近くのサラリーマンなどには評判がよかったのだ


「美味いのう。 やはり朝は和食が一番落ち着くわい」

そんな朝のひと時、スーツ姿の人間に混じって和服を着た近右衛門が一人で和食の朝食を食べている


「麻帆良学園の学園長先生が朝から喫茶店でご飯ってのも珍しいっすね」

「女房に先立たれて以来一人暮らしなんじゃよ。 娘夫婦は京都に住んでおるしのう。 朝と昼は外で済ませる事にしておるのじゃ」

開店初日に来た近右衛門だが、その後もたまにふらりと来店していた

初日以外は探るようなそぶりもない為に問題はないのだが、やはり孫娘のバイト先が気になるのは変わらないようだ

むやみに監視は出来ないが孫娘の事を考えると全くの放置も出来ないため、純粋に客として来店している

まあ実際横島の料理は美味くて安い事もあり、近右衛門としては横島が問題無くとも損はしてなかった


(警戒も探りもしないで姿だけ見せるか…… やっぱり食えないじい様だな)

近右衛門の行動を読んだ横島は、思わず感心してしまうほど見事な行動だと思う

普通に客として来店する分には全く問題はないし、下手に探りを入れもしないので妙な反感を買う事もない

しかし仮に横島が他のスパイなどならば、これ以上ない牽制になる

結局横島に裏が無ければ普通の客だし、スパイなどならば何もしないからこそ問題を悪化させない程度の牽制になるのだ

横島を敵に回さないで木乃香を守るには、現状ではベストな選択だろう

長年組織のトップだった実力がそこには見えていた


「てっきり大きなお屋敷とかに住んで、お手伝いさんが24時間居るんだと思いましたよ」

「お手伝いさんはおるが、最低限の家の管理と夕食だけ頼んでおるでのう。 普通に朝から夕方までじゃよ。 朝食と昼食は外で食べた方が早いしのう」

金も権力もある近右衛門が外食暮らしな事に横島は若干驚くが、思っていたより庶民的だったようだ

実際、麻帆良の飲食店は麻帆良学園の食堂関係を筆頭に味・値段共にレベルが高い

わざわざ人を雇って朝食や昼食を作らせるよりは、外食の方がよほど効率的なのは明らかである


そんな朝が過ぎると朝食目当ての客が途絶え、店は客も少なく横島ものんびりとした時間を過ごす

昼食時に出す本日の限定ランチの調理をしたりするが、占い屋時代の客などが来ると占いをしたり世間話をしたりする事も多い

今は春休みなため木乃香や夕映達が訪れるのもこの頃である

彼女達はこずかいの少ない中学生だけあって、サービスをする事や割引も多い

特に木乃香・夕映・明日菜は開店前からの協力者なため、試作メニューだと言って無料になる事も度々あった


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