平和な日常~夏~

同じ日近右衛門の邸宅では、近右衛門と高畑が二人だけで酒を飲んでいた

ネギの一件が決着してからしばらく一人で考えていた高畑だが、何を思ったのかこの日近右衛門の自宅を訪れていたのだ

二人はしばらく核心には迫らずに、昔話などをしつつゆっくり酒を飲む時間が続いている


「そもそも昔からこの国では魔法使いは弾圧などされなかったし、そこそこ上手くやっておったんじゃがのう。 ヨーロッパの白人の対立を世界中に撒き散らしおって……」

懐かしいような昔話を語っていた近右衛門だが、ふとしたきっかけで愚痴っぽく歴史を語り出していた

ネギの問題に限らずメガロメセンブリアに長年振り回されて来た近右衛門だが、そもそもの根本的な問題として明治以前の日本では魔法使いは過剰に弾圧された歴史はないし上手く付き合っていたのだ

元々メガロメセンブリアに居る魔法使いのほとんどはヨーロッパから移民した白人系魔法使いであり、魔法世界の問題や魔法使いの問題のほとんどは白人の揉め事だった

日本人である近右衛門からすると、余計な問題に巻き込まれた印象が強い


「魔法世界人のほとんどは、世のため人のために働く魔法使いを誇りに思ってるんですがね……」

「そこまで否定しておらんよ。 ただ連中の価値観や正義感を押し付けられるのは迷惑じゃし、元老院は二十年前と変わらんのじゃぞ」

魔法世界での生活経験も長く魔法世界人の気持ちをよく分かる高畑は魔法世界人の気持ちを説明するが、近右衛門もそこまで否定してる訳ではない

だが元老院や一部の特権階級の者達が、メセンブリーナ連合の事実上の支配者なのが実情なのだ

世のため人のためという大義名分で彼らが行う政治は、決して世のため人のためにはなってない

そもそもメガロ上層部や特権階級の者達は、表向きはともかく内心では魔法世界の亜人を人とは認めてないし地球側の人間とも別の存在だと考える者が多いのである

結局のところ一般の魔法世界人がどれほどいい人だろうが、特権階級に問題が多いと周りは迷惑でしかないのだ

それにそもそもの問題として民主主義国家の最終責任者は国民である

元老院や特権階級がいかに真実を隠そうとも知らないでは済まされないし、最終的には国民がツケを払わされるのだ

近右衛門はメガロメセンブリアの問題の根深さを高畑よりもよく知るからこそ、何も知らないからと魔法世界人が全く悪くないとは思えないのかもしれない


「高畑君や、世界は君が思うよりも遥かに残酷で非情じゃ。 ナギ達は確かに魔法世界を救ったが同時に世界を蝕む病巣を残してしまった。 ネギ君を苦しめとるのはそんなナギ達が残した病巣じゃし、連中が一番に狙うのはアスナちゃんなんなんじゃぞ」

高畑はナギ達を良く知り憧れる故に世界が見えてない現状が、近右衛門は本当に心配であった

問題の根は高畑の予想より遥かに深く難しいのだ

偉大過ぎる英雄を知り過ぎるが故に、物事の本質を見極めることが出来ない高畑に近右衛門は現実の難しさを淡々と伝えるしか出来ない

結局この日はお互いに言いたいことを語り続ける夜であった



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