平和な日常~夏~

(どうりで記憶を消した訳だな……)

歴史の闇に隠された明日菜の真実に横島は今後どうするべきか少し悩んでいた

心の奥底から沸き上がる怒りの衝動を抑えつつ冷静に考えるが、万が一の時は穏便に済ませるのは難しいかもしれないと思う


(女の子一人を犠牲にしようとする連中を助ける義理はないな)

ウェスペルタティア王国は滅び現在はメガロメセンブリアが王国を支配してるが、彼らの考えも基本的には同じでありアスナ姫である黄昏の姫御子を道具として欲していた

どうも継承者を特殊な魔法で眠らせると魔法世界の延命的な措置になる可能性があるらしい

横島は不機嫌そうな表情のまま今後のことを考えるが、現時点では魔法世界を助けようという考えは全く無くない

元々正義感など持ち合わせてない横島は、根本的な解決方法を考えもせずにアスナ姫を犠牲にして来た魔法世界の人々を助けたいとは思えないのだ

まあ横島も魔法世界の人全て同じだとは思わないが、二十年前に世界を救おうとしたナギへの結果が結果だけにいい印象があるはずがないのである


(自業自得か。 やっぱりバレるまでは不干渉で決まりだな。 万が一バレたら……)

結局横島は今後も魔法世界の問題には不干渉を決めて自分からは関わらないことにしていた

とにかく今は時間が欲しいのだ

万が一明日菜の存在がバレた時には、いかなる手段を持ってしても阻止すればいいだけである

ここで忘れてはならないのは横島は決して聖人君子ではないし、慈悲に溢れるような存在ではないということだ

かつて世界の終末において、神魔や人を滅ぼした原因の一つは紛れも無く横島なのだから

間違っても全てを救いたいなど思わないし、自浄能力のない連中を助けてやるつもりなどなかった

そもそも借り物である力やアシュタロスの遺産を使って世界を助けるのが、正しいのかは誰にも分からないことな訳だし……


「どうしたの?」

そのままやり場のない複雑な想いで考え込んでいた横島を、先程まで熟睡していたはずのタマモが眠い目を擦りながら起き出して来て心配そうに見つめている

普段は一度眠ればこんなに早くは起きないのだが、まるで横島の心の苛立ちを感じたように目が冷めたらしい


「起こしちまったか? 大丈夫だよ」

タマモの心配そうな表情に横島はハッとしたように普段の表情に戻すが、タマモはそれでも心配そうであり横島に抱き着いていく

何か感じるらしいがどうしていいか分からないタマモには、抱きしめるしか方法がなかったのだろう


「本当に大丈夫だって。 俺もそろそろ寝るから一緒に寝ような」

幼いタマモの温もりと優しさに、横島は心が落ち着くのを感じて僅かに苦笑いを浮かべる

本来なら守らねばならないタマモに助けられてる自分に、思わず苦笑いしか出なかったらしい

横島はそのままタマモを安心させるように一緒に眠ることになる



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