平和な日常~夏~

横島の朝は相変わらず早い

夜明けまで後少しと迫った早朝に起きた横島は、まだ薄暗い部屋で日課である己の魂の状態を確認する事から始める

異空間アジトから常に送られている神魔人界のそれぞれの魔力を魂に取り込み、魂に合わせた四種の霊力として身体中の霊的中枢に回していく

それは神魔妖人のような種の魂を持つ横島にとっては、起きがけに深呼吸をするようなものであり最低限の確認であった


「タマモ、おはよう。 朝だぞ~」

それが終わるとぐっすりと狐形態で眠るタマモを起こすのだが、実はこれはタマモ本人が希望したことである

横島は朝早くから起きなくても好きなだけ寝てればいいと言ったのだが、タマモは目覚めた時に一人なのが嫌らしく起こさないと拗ねるのだ


「……おはよ」

そんな訳で横島に起こされたタマモは眠い目を擦りながら人間形態に変化して、夜中に無意識で狐形態になった時に脱げたパジャマを着ていく

その後二人は歯磨きと顔を洗って着替えると庭に出て行った


「タマモはご飯と水を頼むな。 あと体調が悪いやつが居たら教えるんだぞ」

「うん」

庭に出ると横島は畑と花壇の方に水をやり、タマモは猫達にご飯と水をあげるのが最近の形であった

これは横島が考えたというよりはタマモが自主的にやりたいと言い出したことであり、一緒に何かしたいという思いが強いらしい


「おはようございます」

「おはよ」

そのまま横島が広い庭の畑や花壇の水やりや草むしりなど続ける中、茶々丸が来ると横島達と朝の挨拶を交わしてタマモと一緒に猫達の相手をするのだがこの二人は本当に会話が続かなかった

双方共に口数が少ないことが原因なんだろうが、タマモも茶々丸も楽しそうなのにもかかわらず会話がないという不思議な空気を漂わせている

この辺りはもう少し時間が必要なのかもしれない


「さて、仕込みするか。 朝ご飯は何がいい?」

その後茶々丸が帰り朝の日課が終わると横島は店の厨房で仕込みを始めるが、タマモが来て以来変わったのは横島もまともな食事を取るようになったことだろう

タマモが来る前はカップ麺やインスタント食品の朝食だったが、タマモの為にまともな朝食に変えている

基本的にタマモが横島と同じ物を食べたがるため、横島がタマモに合わせたのだ

実は金毛白面九尾は肉体を持たない霊的生命体な為に正直食事の栄養などはあまり気を使う必要もないのだが、どうせ食べるなら美味しい物を食べさせたいとの横島のこだわりからきちんとした朝食になったのだ


「……おいなりさん」

「おっし、じゃあ作るからいい子で待ってるんだぞ」

タマモの食べたい物を聞き店の仕込みと同時に朝食も作り始め慌ただしく働く横島を、タマモは静かに見つめていた

実は本心では手伝いをしたくて見て覚えようとしてるのだが、流石に料理を覚えるのは簡単ではなくちょっと残念そうである

ただ次々に調理されていく光景を見てるのは面白いらしく、厨房の隅に椅子を持ち込んでちょこんと座ってずっと見ている

そんな朝の日常風景だった



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