「見てれば分かるよ。　いや～、モテる男はいいねー」

「そう言う横島さん彼女は居ないん？」

明日菜をからかい高畑を羨ましげに語る横島に木乃香はふと疑問が浮かび彼女の有無を聞くが、答えは悲しそうにため息をはく横島の姿で悟る


「やっぱイマイチ分かんない人よね」

「そんなモテないように見えへんけどなぁ～」

明らかに落ち込む様子の横島に、明日菜と木乃香は若干不思議そうに内緒話をしていた

横島が落ち込むほどモテないようには見えないのだ

実際かつての横島も全くモテなかった訳ではなく、モテてもどうにも出来ないほど不器用だっただけなのだが


「まあ俺みたいな奴でも、一生に一回くらいはモテるだろ」

落ち込んだ様子の横島だったが、すぐに立ち直りそのうちなんとかなると笑って話を終わらせてしまう

落ち込んだ横島に多少困っていた木乃香と明日菜は立ち直りの早さにポカーンとするが、横島は全く気にした様子もない


（本当にモテへんかったんかな～）

今の横島に何か変だと感じる木乃香だったが、普段からどこか普通じゃないだけに心に残る疑問も次第に消えていく

というか横島がモテないという事を木乃香はイマイチ信じてなかった

ただ単に変なところで不器用になるのだろうと考えていたのである



「綺麗やな～」

その後三人は近くの桜が咲いてる公園に行くが、そこは満開で見頃の桜と宴会を開くたくさんの人でごった返していた


「やっぱり、ゆっくり見るなら場所取りが必要なのよねー」

満開の桜を見ながらどこかゆっくり出来る場所を探す明日菜だったが、どこも人でいっぱいである

時期的に学生達が春休みな事もあり、桜のある公園なんかは連日場所取り合戦が行われていたのだ

中には場所取りからケンカになるケースも少なくない為、高畑のような学園側の先生達は連日忙しい日々らしいが……


「もしかして店から近い桜通りの方がゆっくり見れたか？」

「あそこはあかんえ～　麻帆良でもオススメのお花見スポットやから、お祭り期間中は出店と人で混んでるんや」

あまりの混雑ぶりに横島は店や女子寮から近い桜通りの方がよかったかと考えたが、木乃香の話ではあちらもお花見スポットとして混雑してるらしい

と言うかこのお祭り期間中に混まないお花見スポットなど存在するはずが無かった


「まあ人が居るからお花見は楽しいんだけどな」

木乃香の話に僅かに苦笑いを浮かべる横島だったが、人が居ない世界の寂しさや孤独さを知るが故に現状の人混みに暖かい気持ちを感じずにはいられなかったようである


結局その日の横島は木乃香と明日菜に案内されるままに、麻帆良のお花見スポットを見てまわることになった

昔と違い女の子に奢れるだけの財布の中身に、金欠だった過去を思い出し懐かしさを感じてしまう時もあったが……

希望溢れる木乃香と明日菜の笑顔や街の人々の明るさに、横島は改めて幸せの価値を再認識する一日となる


一方ほんの気まぐれで横島を花見に誘った木乃香と明日菜だが、変人に近いと感じていた横島が割と常識的というか普通な部分があったことに驚きを感じつつ更なる興味を持ち始めていた

見た目は多く見ても二十歳で下手をすれば高校生にも見える横島の奇妙な様子に、純粋に興味を持ち始めていたのだ

個性あふれる麻帆良の人々だったが、個性という意味で言えば横島も負けて無い


横島の久しぶりの花見は特に問題も起きずに平和なまま終わっていた