平和な日常~夏~

「でっかいビルだな」

「うん」

この日お昼の営業を終えた横島は、店を一旦閉めてタマモと一緒に雪広コンツェルン本社を訪れていた

実はあやかに頼まれた麻帆良祭関連プロジェクトへの協力の一貫として、会議に参加する為に本社を訪れていたのだ

以前にも説明したが雪広コンツェルン本社は麻帆良市の郊外に位置しており、周辺の企業ビルの中でも一・二を争うほどのビルであった

横島はあやかからラフな姿でいいからと言われており、Tシャツとジーパン姿でタマモはハニワ兵の手作りワンピースである

しかしビルからはスーツ姿のビジネスマンやOLが出入りしており、明らかに二人は場違いだった


「着替えて来るべきか? まっ、いいか」

流石に横島も空気を読んで着替えるべきか悩むが、特別問題はないだろうと考えそのままビルに入っていく

ラフな姿の子供連れの二人は結構目立っており周囲の視線を集めるが、流石は国際企業なだけあって特別嫌な視線もなければ馬鹿にする雰囲気もない

加えて説明すると横島は知らないが雪広グループは一芸に秀でた人材を多く集めており、中には変わった人材も少なくなかった

まあ営業などは流石に常識的な人材が多くスーツが当然だが、内勤などは割と自由でラフな服装をしてる者も多いのである

これはあやかの祖父であり現会長である清十郎の時代から続くことなのだが、仕事が出来るのに一般的の日本企業に馴染めないような人材を積極雇用してきた実績があった

実は過去には清十郎が街で偶然知り合った若者を気に入りそのまま連れて来て社員にしたなど、まるで冗談のような逸話が雪広グループには幾つもある


さて話が少し逸れたが中に入った横島は受付で担当に取り繋いで貰い会議室に案内される

タマモは始めてみるビルの中やビジネスマンなどを相変わらずキョロキョロと見ているが、横島が居るせいか特に怯える表情は見せてない

ちなみにタマモの同行に関しては、昨日のうちにあやかに相談し同意を取り付けていた

かなり非常識な行動ではあるが一応大丈夫らしい

そんな訳で会議室に入った横島とタマモだったが、二人を迎えたのはプロジェクトの担当者達と超鈴音であった

横島は約束の時間の十分前に来たのだが、他の者はすでに集まってるようである


「はじめまして、私は超鈴音ネ」

横島の姿を見ると超がやって来て初対面のタマモに挨拶するが、彼女は何故か肉まんをタマモに手渡す

初対面で肉まんを手渡されたタマモは不思議そうに超を見るが、超は今日の会議用の試作品だと告げる


「いや~、ちょうどよかったよ。 小さい子の感想も聞いて見たかったしね」

同じく横島に声をかけて来たのは麻帆良祭で一緒だった雪広グループ社員だが、どうも彼らは試作品の試食をタマモにもして欲しいらしい


(うーん、抜け目がないな)

本当はまだ横島が居ないと不安になるタマモの為に無理を言って連れて来たのだが、超や雪広グループの社員は試作品の試食をさせたいと反応を楽しみにしている

横島は思った以上に抜け目のない雪広グループ側に国際企業の凄まじさを感じていた


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