平和な日常~夏~

その後も噂を聞きつけた中等部の少女が続々と入れ替わり立ち替わり訪れるが、基本的にタマモは横島の傍を離れなくなる

それは嫌いというよりは戸惑ってるという言葉が近いのかもしれない

まあ昨日の今日だけに全てに慣れてないのは確かだろう

そんなタマモに少女達もまたあまり深追いすることなく優しく見守ったのは、偶然が重なった結果である訳あり少女という噂のおかげだった


「こんばんは。 その子が預かった子供なのですね」

そのまま日が暮れる頃までたくさん来ていた少女達が居なくなった頃、夕映とのどかが十冊近い本を抱えて店に現れる

二人は疲れたのか本を置いて一息つきながらタマモを見るが、タマモは相変わらず横島の傍を離れることはなかった


「随分たくさん本を借りて来たんだな」

「大変だろうと思って絵本を借りて来たのですが、要らなかったですかね」

幼稚園児くらいだと聞いた夕映とのどかの二人は、どうやらもっと元気いっぱいで世話が大変だろうと考え絵本を借りて来たらしい


「おっ、絵本か~ これは嬉しいな。 ほら本だぞ」

先程からずっと傍に居るタマモに横島は二人が借りて来てくれた絵本を見せると、タマモは興味津々な様子で絵本を手に取る

正直横島はタマモが字が読めるのかなど一切確認してなかったことを思い出し様子を見るが、どうやら多少は読めるらしく割と楽しそうに絵本を巡っていく


「ありがと」

何ページか巡って読んだタマモは突然本を閉じると夕映とのどかにお礼を言い、手持ちの絵本を持ってカウンターの端の席に座って読み始める

その声は決して大きくなく笑顔も見せないが、でも本を抱えるタマモの姿は確かに嬉しそうだった


「どうやら喜んでくれたようですね」

「本が好きなのかな?」

タマモの態度は決して社交的ではないが、夕映とのどかはそんな態度が逆に共感を感じるらしく絵本を読むタマモを見て嬉しそうである

彼女達もまた幼い頃は社交的で明るく騒ぐ子供ではなかったのかもしれない


「そういえばあの子なんで和服なの? 今時珍しいわよね」

「そうなん? うちは小さい頃はよう着てたわ~」

一方この時間も店に残っていた木乃香と明日菜は微笑ましい光景を静かに見ていたが、ふと明日菜はタマモが和服であることに疑問を感じたようだ

木乃香は幼い頃は和服をよく着ていたらしく違和感がないようだが、明日菜は若干違和感を感じたらしい


「ああ、和服が好きなんだよ」

「へ~、そうなんだ」

横島は今まであまり気にしてなかったが、タマモの和服に違和感を感じるのは当然だった

和服に違いはないが現代人が着るようなデザインではない


(そういや服がないんだったな)

この時横島は明日菜のおかげで着替えがないことを思い出し微かに苦笑いを浮かべる

今のタマモが着てる和服は変化の術の応用であり、厳密には服ではないのだ


(服か……。 確かあっちに在庫はなかったよな)

衣服に関しては異空間アジトにはタマモが着れるような服は現在はないようだった

実は神魔戦争時代に衣服を作っていた各種工場は今も残っているが、衣服自体はなかったと横島は記憶している

異空間アジトには以前に説明した食料の他にも衣料のような生活必需品から軍事兵器など多岐に渡る生産施設はあるが、現在はほぼ全て稼動してない

元々異空間アジトで各種生産が開始された理由が神魔戦争時の日本への支援物資の生産なため、必要が無くなった時点で生産が止まっていたのだ



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