平和な日常~夏~

一方朝食を食べ終えたタマモはやって来る客や対応する横島を静かに見ていた

有線放送の音楽が流れる店内は比較的静かで、九尾である彼女の聴覚では全ての話し声が聞こえてしまう

正直あまり話をする人は居ないが、常連の客と横島の話を聞いて少しでも現状を学ぼうとしてるようだった


「そのうち街を案内してやるからな。 とりあえず甘い物食べるか?」

子供のようで子供でないタマモに横島は危険はないのだと説明したくなるが、そもそも本能からくる警戒心もあり簡単ではない

結局は焦らないで慣れればいいかとスイーツをタマモに食べさせる


「おいしい。 ねこさん達の言う通りだ」

幼い身体に似合わないほどよく食べるタマモだったが、今のところ食べてる時は笑顔をよく見せていた

彼女はどうやら種族としての記憶や経験が中途半端なせいで人間に対しては警戒心が強いようだが、何故か猫達に対しては割と心を開いてるらしい

どうやら庭に居る猫達から横島の話を聞いたようである

二人はそのまま穏やかな時間を過ごしていく



その頃中等部では横島と子供の噂が伝言ゲームのように広がっていた

初め茶々丸が話したのは横島の家に子供が居たというだけなのだが、いつの間にか横島に子供が居たという噂から酷い噂だと明日菜や木乃香が妊娠したとの噂まで上がる始末だった


「早く真相を確認した方がいいですわ」

他のクラスや学年からも事情を確認しに訪れる者が後をたたず、あやかや千鶴などの常識がある者は早々に真相の確認をすべく木乃香達と相談を始めている

無駄に中等部で顔見知りが多い横島なだけに、本当に根も葉も無い噂が広がっていたのだ


「うち電話してみるわ」

最初は半信半疑で笑っていた木乃香も勝手な憶測をした夕映や明日菜も、流石に自分達が妊娠したと噂されるのは予想外だった

結局彼女達を代表して木乃香が横島に電話をして確認することになる


「俺に子供が出来たって騒ぎになってる!?」

そんな木乃香から電話を貰った横島は突然の騒動に、思わず飲んでいたコーヒーを噴き出すほど驚いてしまう

やはり横島自身はタマモの件を甘く考えていたのだ

まさか半日もたたずに騒ぎになるとは思いもしない


「知り合いから預かったんやて。 やっぱり横島さんの子供じゃないみたいや」

「またお人よしなことしたんじゃないの?」

「とりあえず真相を広めてください。 麻帆良祭でお世話になったのにご迷惑をかけたら合わせる顔が無くなりますよ!」

一時はかなり過激な噂が広まった今回の件だが、あやかが持ち前の指導力を発揮して事態の鎮静化を計ることになる

最初は笑っていられたあやかも流石に噂の変化に危機感を募らせたようだ

その結果横島の子供だという問題の噂は消えるが、代わりにお人よしな横島が他人の子供を預かったとの噂が急速に広がることになる

日頃のサービスなどで元々かなりのお人よしだと思われている横島なだけに、他人の訳ありな子供を預かったのだと微妙にリアリティがある噂が立つと一気に広がってしまう

きっと貧乏くじを引かされたのだと思う者は多く、女性が苦手で彼女も作れないのに子供を育てねばならない横島には何故か同情が集まることになる



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