平和な日常~夏~

賑やかな日曜日も終わり日付が変わった深夜、先程まで晩酌しながらさよとおしゃべりをしていた横島は寝室に入り一冊の本を手に取っていた

その本は麻帆良祭で横島が古本市で貰った本である


「そういや、この本のこと忘れてたな」

古びた本を手に取った横島は無造作にパラパラとページをめくるが、やはり何も書いてない

ただ問題は本自体に妙な魔法が掛かってることだろう

実は横島も中身が何かは全く知らなく、何か霊感にひっかかるものを感じた為に貰っただけである


「何かの封印だな。 かなりめんどくさい術っぽいし……」

なんとなく気になり霊視してみる横島だが、何かを封印した術が掛かってることに気付く

しかも封印されしモノを弱らせる術も付加されてるようで、かなり面倒ななにかが封印された本のようである


「ただ何かひっかかるんだよな~ この本」

封印を解けば厄介かと若干ビビる横島だが、まるで魂が共鳴するように本が助けを求めてる気がした


「まあ、いいっか。 魔獣程度なら慣れてるし」

厄介事は嫌だと少し悩む横島だが、珍しく魂が騒ぐ感じに負けたように封印を解いてしまう

かなり面倒な封印だが、横島の場合は正攻法以外の裏技があるため一瞬で終わりだった

久しぶりに出した文珠の【解】で封印をあっさり解くと、その瞬間に本から凄まじい光が部屋中を照らしていく


「この魂は……」

その瞬間、横島は慌てて部屋に結界を張り霊力が外に漏れるのを防いでいた

それもそのはずで封印されていたモノは、横島がよく知る存在だったのだから


「まさかこんな本に封印されてるとはな」

驚きながらも封印されていたモノを見る横島だが、肝心の彼女は静かな寝息を立てて眠っている

金色に輝く毛並みと九つの尻尾をユラユラと揺らす彼女は、間違いなく金毛白面九尾の転生体である幼い子狐だった


「これも運命だとでも言うのか? しかしなんで殺生石でなく本なんかに……」

それは魂が引き合ったとしか考えられなかった

本来は殺生石で眠るはずの彼女が何故本などに封印されてるのか、横島は首を傾げるが分かるはずもない


「…………?」

横島がしばらく考え込んでるとようやく彼女は目を覚ますが、まだ頭が働いてないのか静かに横島を見つめるだけである


「え~と、俺は敵じゃない。 分かるよな?」

目を覚ました子狐を刺激しないように語りかける横島だが、微かに魂が共鳴してるのは横島も子狐も感じてた

子狐はようやく目が覚めたらしくクリクリとした可愛らしい瞳を大きく開いてキョロキョロするが、横島が敵ではないのは本能的に理解したらしい


「とりあえず飯にするか?」

お互いに名前も名乗らぬまま子狐にご飯にするかと尋ねると子狐は素直に頷く

慌ててキッチンに走った横島はありったけのきつねうどんのカップ麺とお湯を用意していた


(今回はひっかかれなくて済んだな)

やかんにお湯を沸かす横島は、かつてタマモと出会った時を思い出し感慨深いモノを感じてしまう

この心に込み上げてくる懐かしさと嬉しさは、横島一人の感情ではない

そして世界を越えて新たに出会った彼女は、横島の中に存在する彼女達が横島を人並みの幸せにする為に送った助っ人なのかもしれない



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