平和な日常~夏~

「いらっしゃい」

そんな木乃香達も帰り夜十時を過ぎた頃、客も途切れそろそろ店を閉めようかと考えていた時にやって来たのはエヴァだった

相変わらず学校には登校せずに魔法球で呪いの研究をしてる彼女は、時折戻って来てはふらりとやって来るようだ


「私にもそれを一杯くれ」

いつものように酒を飲みながらカウンターで暇そうな横島に、エヴァはさも当然なように酒を頼むが流石に横島は微妙な表情を見せる


「なんだこれは……」

多少微妙な表情を見せた横島も他に客も居ないことからいいかと頼まれた酒を出すが、何故かグラスはジュース用だった
匂いで酒だとすぐに分かるが、流石にジュースのグラスに入れられた酒にエヴァは表情を歪める


「グラスくらいは我慢しろって。 誰か来たら面倒だろうが。 味は変わらんよ」

ジュース用のグラスで飲む酒も確かに味は変わらないが、エヴァはなんだか納得がいかない表情であった

ただ他には飲める場所もないことだし文句は言わないが……


(やはりクズ供に負けるほど弱いとは思えんな)

そんなエヴァは出された酒を飲みながらも横島を観察していた

実は茶々丸から麻帆良祭での出来事を聞いていたエヴァは、多少横島の実力に興味を持ったらしい


「俺の顔になんか付いてるか? 愛の告白ならもうちょっと大人になってからな」

「なぜ私が貴様などに告白せねばならんのだ? それに私はこれ以上成長などせん! 貴様こそクズ供に絡まれて土下座しようとしたらしいな?」

横島の相変わらずな軽薄な態度にエヴァは軽く苛立った表情を見せ反発するが、彼女は何故か横島を挑発するような言葉を続ける


「土下座? ああ、あの時か。 土下座で終わるならいくらでもするよ。 減るもんじゃないし」

「貴様にはプライドがないのか? それとも平和主義でも気取ってるのか?」

この時エヴァは苛立っても無ければ怒ってもなく、茶々丸より聞いた話から横島の真意が知りたかったのだ

割と分かりやすい挑発だが、悲しいことに引っ掛かる人間は多い


「プライドがないんじゃないか? 平和主義なんてガラじゃないしな。 結果的にあの場を切り抜けられるなら、なんでもよかったんだよ」

「つまらん男だな」

終始横島を挑発するエヴァだったが元々横島は挑発に乗るタイプではないし、そもそもプライド自体持ってるつもりはない

そんな本心を隠すことなく話す横島だったが、エヴァは逆にそれが本当の本心なのか考え込む立場になってしまう


(よほどの大馬鹿か策士かのどっちかだな)

結局エヴァは横島が普通ではなく、よほどの大馬鹿か策士かのどちらかだろうと結論付ける

しかし実際には横島がそんなに単純ではないと彼女が気付くには、今しばらく時間が必要らしい


「つまらんって言われてもな~ 結果的に丸く収まったんだからいいじゃんか」

「貴様は甘いのだ」

「甘いねぇ…… そうだ、まだ余ってるケーキ食うか? もう店仕舞いだしタダでいいぞ」

「………食べる」

その後もなんとか横島の調子を崩そうとするエヴァだったが、結果的にはケーキに釣られて矛を納めてしまう

そもそも多少の興味から横島を挑発はしたが、どうしても知りたい訳でもないらしい


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