平和な日常~夏~

次の朝、麻帆良の街は前日までの熱気が嘘のように静まり返っていた

夜明けまで騒いでいた者達も朝の空気に麻帆良祭の終わりを感じ、それぞれに帰って行く

街にはまだ麻帆良祭の出し物や出店がほとんど残っているが、これは本格的な後片付けが二日間の代休が終わってからになるので今日と明日はほぼこのままだった

麻帆良祭の看板や出し物が残る中、賑わいだけが消えた街は独特の雰囲気に包まれている


「今日はお粥でいいかぁ」

そして横島はついさっきまで2ーAの少女達と騒いでいたにも関わらず、いつもと同じ時間に店を開けていた

まあ流石に今日は凝った料理を作っても客が来ないと思ったのか、本日の限定メニューがお粥になっていたが


「ゆっくり休むか」

店を開けておいてなんなんだが客は皆無だった

麻帆良全域で総力を上げた麻帆良祭が終わり、近所の商店街までもが今日は休む店が多いのだ

無論麻帆良に本社や支社を置く企業は働いてる企業も多いが、それでもいつもの月曜と比べると雲泥の差がある

横島はコーヒーを飲みながら土偶羅からの麻帆良祭関連の報告書に目を通して、まったりとした時間を過ごしていく


「君もよく働くのう」

そんなこの日の客の第一号はなんと近右衛門だった

ここ数日の激務を象徴するかのように微妙に疲れた顔で店に入ってくる


「暇なんで開けてるだけっす。 麻帆良祭はよく働いたんで一年くらいゆっくりしますよ」

近右衛門も横島をよく働くと褒めはしたが、実際横島はカウンターに座りノートパソコンを見てるだけなのだ

確かに暇潰しに見えなくもない


「そういえば面白い写真がわしの元に来たんじゃが……」

日替わりのお粥を頼んだ近右衛門に提供した横島は再びカウンターに座り一息つくが、意味ありげな笑顔を浮かべた近右衛門が一枚の写真を横島に見せる


「お孫さんをくださいって言えばいいですか?」

それは例の写真コンテンツに出品された横島と木乃香の写真だった

写真を見て一瞬固まった横島だが、ここで引くとつまらないと感じたのか真顔で真剣な答えのように返してしまう


「婿に入るなら構わんよ」

「すごい逆玉っすね~」

横島の言葉に近右衛門は全く動揺せずに婿になるならと言うと、横島は更に逆玉だと喜んでみせる

なんと言うか爽やかな朝に笑顔で会話する二人だが、朝から化かし合いをしてるのだからどっちもどっちだった


「せっかくじゃからわしの代わりに麻帆良学園の学園長も頼む。 やり甲斐があるぞ」

「どこの馬の骨とも知らない野郎が突然学園長っすか。 イジメられるんだろうな~」

笑顔でニコニコと会話する二人はとんとん拍子に話を進めていくが、二人は同じタイミングでため息をつく


「もう少し慌ててくれんとつまらんのう」

「お互いさまですよ」

化かし合いに飽きたのか双方本音を語るが、近右衛門はもちろん横島と木乃香が友人以上でないのを知っている

ただ横島が木乃香をどう思ってるか知りたかったのだ

しかし横島は話に上手く乗ってごまかしたのだから、ため息しか出なかったのだろう



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