麻帆良祭

「ちょっとお灸を据えただけなんですけれどね」

ストーカーの件は横島としては甘い処分で済ませた感覚だった

本当は麻帆良に居られないようにしようかとも考えたが、中途半端な恨みを残したくないが故に穏便に済ませていたのである


「ちょっとねぇ……」

横島としては軽く済ませたつもりだが、この問題は意外と大きな問題になりそうな気配があった

まあ学園側は今は忙しくて特に対策など考えてないが、報道部や各校生徒会を中心に今回のような行き過ぎた男女の問題への対策を考えるべきだとの声が上がってるらしい

基本的に麻帆良学園は自由な学園を守る為に、生徒による自浄努力が盛んな学校なのだ

問題がデリケートな為に対応は簡単ではないが、最低限被害者が気軽に相談出来るような仕組みは必要だとの意見が多いようである


(意外と怒らせたら怖いタイプかもね)

今のところ麻帆良祭の賑わいで大きな変化はないが、報道部はストーカー集団へのトドメを刺すべく影で動いている

少なくとも千鶴の周辺をうろつけないようにしようと企んでるらしい

横島がどこまで考えていたかは刀子には分からないが、当人達にとってはちょっとどころではない可能性が高かった

刀子は普段の横島から甘い人間なのかと考えていたが、思ってた以上にシビアな一面もあるのだと初めて感じる


「俺は美人や美少女の味方っすから。 迷惑野郎に同情する気はないっすよ。 ちょっと待ってて下さい」

そんな刀子の微妙な表情に気付いた横島は、野郎に同情はしないと笑って言い切り厨房に入っていく

残された刀子はどこまで本気なのかと一瞬考えるが、考えても分からないだろうと諦めハーブティーでひと時の休息を満喫する


「これ余り物ですけど、よかったら持って行って下さい」

十分ほどして厨房から出て来た横島はサンドイッチとおかずの入った弁当を作って来ていた

実はこれは仮設店舗の余った材料や、少女達のパーティー用に買った食料の余りで簡単に作った弁当である

これは普通の料理だが、今夜も徹夜の刀子の夜食か朝食にと考えたらしい


「いつも悪いわね」

また自分は酷い顔なのかと多少恥ずかしくなる刀子だったが、最近はコンビニ弁当ばっかりだったことを思い出すと素直に有り難かった
 
性格上仕事に妥協できないタイプである彼女は、必然的に私生活で妥協してしまうようだ


(ほんとに女性が苦手で損してるわよね)

まだ温かい弁当を受け取った刀子は、しみじみと横島は損をしてると実感してしまう

刀子自身誰から聞いたか覚えてないが、横島が本当は女性が苦手だと聞いてすっかり信じている

横島が女性の愛情を求めてる節があるは気付いているが一定以上のラインは誰とも越えようとしないのだから、以前から不自然には感じていたのだ


(いっそ私が……)

一瞬このまま自分が横島をなんとかしてやりたいと考えて顔を赤らめる刀子だったが、下手すると中高生と争うような展開になるだけにすぐに理性を取り戻す

やはり教師が中高生と一緒になって若い男に熱を上げたと言われるのは避けたかったようだ



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