麻帆良祭

その後もパレードは順調に進み、いよいよフィナーレが近付いていく

いつの間にか街は夜の闇に包まれており、色とりどりの光がパレードを更に盛り上げていた

そんな中で木乃香はパレードを見ながらも、少し横島が気になっている

特別気になる理由がある訳ではないが、実は先程の写真が微妙に頭から離れなかったのだ


(今のウチと横島さんは、周りからどう見えてるんやろ)

正直木乃香は今までさほど横島を異性として意識したつもりはない

まあ身近では一番年齢が近い異性なことに変わりはないし、好きか嫌いかと聞かれると好きなのは確かである

ただその感情が恋愛のモノなのかどうかは、本人ですらよく分かってない

木乃香が明確に望んでいたのは今の関係が変わらないことだったのだから


(でも……)

しかし客観的に見ると先程の写真は、恋人以外の何物にも見えない写真である

意外と珍しい横島の素に近い表情の写真であることから、知り合いでさえ疑うような気がしてしまう


(ウチどうしたらええんやろ)

木乃香としては現状が一番幸せではと思うが、横島や周りががそれを望んでるかは分からないのだ

しかも横島は女に騙されやすいように見えるし、騙されると居なくなる可能性も決して否定出来ないから始末が悪かった

横島本人はそれを否定してはいるが、やはり木乃香から見ても説得力がないのである


(よく考えたら、ウチは横島さんのことなんも知らんわ)

そのまま横島と自分の関係を改めて見直す木乃香だが、彼女は横島のことをほとんど知らないことに気付く

両親がすでに居ないことや世界が見たくて旅をしていたなど、いくつか過去は聞いたがイマイチ説得力に欠ける過去であった

別に横島が嘘をツイてるとまでは思わないが、何かを隠してる可能性は十分ある気がしている


(もう少しこのままで……)

モヤモヤする心に答えが出ぬまま、木乃香はもう少しこのままで居たいと願っていた

それは恋愛を知らない彼女が通るべき道なのだろう

そして……傷つきやすやぎを求めてる横島と恋愛を知らぬ木乃香は、奇妙なほど望む関係が一致してる事実を木乃香は知らなかった

結局一枚の写真が木乃香をちょっとだけ動かしたことは確かなようである



「来てよかったよ。 思ってた以上に楽しかったしな」

「今年は見応えあったわ~」

その後パレードも終わり人の流れに乗ったまま歩き出した横島と木乃香は、いつもと変わらぬままに楽しげに話をしていく

実は横島は木乃香が何かを悩んでるのは気付いているが、それを尋ねるほど無神経ではない

木乃香もいろいろ悩んだが、今はこの瞬間を楽しみたいとの思いが強かった


「ご飯にするか? それとももう少し散歩でもするか?」

「ウチ散歩がええな」

人の流れから外れて少し裏通りに抜けた横島と木乃香は、パレードの余韻のままにしばらく散歩を続けることになる

横島も木乃香も難しい話を抜きにして今この瞬間を変えたくなかったのは同じだった



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