麻帆良祭

人混みの流れに乗るように逃げ出した横島と木乃香は、世界樹前広場を出て表通りに戻って来ていた

写真の近くに居れば目立つ横島と木乃香だが、流石にここまで来ると気づく者もいなくなる

横島と木乃香はお互いホッとして一息つくが、思わず笑い出してしまう


「まさかあんなことになるとはな」

「あの写真、他にも使われるかもしれへんよ」

最も苦手な分野だっただけにとっさに逃げ出した横島は、最早諦めたように笑うしかない状況だった

一方木乃香は恥ずかしいような困ったような表情をしてはいるが、横島ほど気にしてないようで楽しそうである

加えてあの手の写真が、麻帆良祭の後に発行される公式な記念ブックなどに載せられることも多いと告げていた


「まあ、なるようになるか。 それよりパレード見る場所探そうか」

少々目立ち過ぎたかとの考えが頭を過ぎるが、木乃香は気にしてないし横島も気にしないことにする

後々少しややこしいことになりそうな気もしたが、すでにいろいろとややこしくなってる以上は今更なことでもあった



結局そのまま写真の問題を流した横島と木乃香は予定通りパレードを見物する

木乃香は毎年見てるらしくそれほど大きな驚きはないようだが、横島の驚きはやはり大きかった


「日本っぽくないパレードだな」

「十年以上前の実行委員の人が海外のお祭りとか、テーマパークのパレードを参考にしたらしいんよ」

パレードは日本では珍しく割とラテン的なノリというか雰囲気である

しかもファンシーな着ぐるみや山車なども多く、他にはないオリジナリティーが満載なのだ

表通りの路肩だけではなく付近の建物の二階や、中には屋根に登って見ている人も居るほど根強い人気があるらしい


「ここの人って本当にバイタリティに溢れてるな~」

「ウチも始めてパレード見た時はビックリしたわ」

パレードといってもグループ単位で参加している麻帆良のパレードは、それぞれに様々な趣向を懲らしていた

本物そっくりなロボットを使ったグループもあれば、一糸乱れぬダンスを踊るグループもある

何より驚くのはその完成度の高さだろう

横島達の店舗が人気は出るが必要以上に騒がれないのはある意味当然であり、学園祭レベルを越えたイベントやパレードが他にもたくさんあったのだから


「学園長先生がいつまでも辞められない訳だな」

華やかなパレードを楽しむ横島は現状の麻帆良学園を維持発展させる難しさを考え、思わず苦笑いを浮かべて呟いてしまう


「おじいちゃん?」

「優秀過ぎるから代わりが居ないんだろうよ。 こうやってみんなで馬鹿騒ぎ出来る環境を整えるのも楽じゃないからな」

笑顔と幸せに溢れた麻帆良祭の影に隠れた近右衛門の苦労を思うと、横島は自分では真似出来ないだろうと思う

裏と表の両立の大変さも当然あるが、自由で個性を育てながらも同時に協調性や連帯感ある人を育てるのは難しいなんてものじゃない

規則で規制するのは簡単だが、あえてそれをしない苦労は木乃香や他の生徒には伝わってないようである


「もうちょっと大人になれば解るさ」

何故そこまで大変だと言うのか理解出来ない木乃香に、横島は大人の世界はいろいろ大変だと笑って答えていた



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