横島君のお店開店

その後閉店した店内では横島が一人で掃除をするが、広さが結構あるだけに大変である

それでも外から見えない位置の厨房はハニワ兵に掃除をさせているのでまだいいが、一人で営業するには規模が少し大きかった


「明日は何にすっかな~」

明日の限定メニューを考えながら掃除をする横島は、その後一時間ほど掃除をしてこの日は終わりとなる

そのまま二階に上がった横島は殺風景なリビングで床に置かれたテレビを見ながら、異空間アジトより取り寄せたビンのビールをラッパ飲みする

あちらで生産された特製のビールだったが、かつての酒好きな仲間がこだわって作らせた内の一品だけあって美味しいものだった


「やっぱ銀ちゃんは居ないか……」

テレビで流れる歌番組を見ていた横島は、ふと前世界で親友だった銀一を思い出してしまう

芸能人などは前の世界と同じ人も居るが、無論横島が全く知らない人も多い

華やかな歌番組を見ていると今にも銀一が登場しそうで、ふとそんな有り得ない事を期待してしまう自分に横島は複雑な感情が込み上げてくる


「お前は本当に変わらんな」

「お前こそ珍しいな、あっちから出て来るなんて」

しばし無言のままテレビを見ていた横島の前に、突然白髪の老人が現れた

見た目どこぞの執事のような姿と顔立ちで80才を過ぎるだろう老人は、まだ未開封のビールを一本手に取ると横島同様にラッパ飲みする


「蟠桃の地下にいろいろ面白い物がいくつか見つかったがどうする?」

「放っておけよ。 よそ者が首を突っ込んでいい事なんてないだろ」

「世界を滅ぼす力を持っても横島は横島か……」

「お前もその人型スペアボディなら外に出れるだろうし、好きにしていいんだぞ」

「わしが居なくなれば、お前が一番困るくせに」

二人はテレビに視線を向けつつ会話を続けるが、その空気は奇妙でもあり温かいものでもあった

滅多に見せないような寂しげな表情を浮かべる横島に、老人はからかうように言葉を続ける


「お前も妙なところがアシュ様に似て来たな。 あのお方は本当に魔族らしくなかった。 神魔の存在を嫌いそこから抜け出そうとなされた。 きっとアシュ様も計画が成功したら神になどならなかっただろうな」

「俺があいつに似て来たか? 一緒にされたら怒るんじゃねえか?」

「さあな。 わしはただの兵鬼で道具だ。 アシュ様の本当の御心など分かるはずがない」

「あいつの夢を潰した俺があいつの遺産のおかげで生きてるんだもんな。 なんつう皮肉だ」

それは二人にしか分からない空気で関係なのかもしれない

かつて神魔がハルマゲドンという最終戦争をする中、神魔の最重要ターゲットだった二人

横島忠夫と土偶羅魔具羅

神魔上層部がどちらか一人さえ抹殺すれば、横島も土偶羅も敵ではないと考えていた二人である

そしてこの老人は土偶羅のスペアボディの一つだった

土偶羅の本体は異空間アジトから出れない為、横島がかつて用意したスペアボディの一体である


この後二人は、夜更けまで昔の話を酒の肴に時を過ごしていく

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