横島君のお店開店

中学生達で混雑していた開店初日も、夜7時を過ぎると人は一気に減り静かになっていた

近所の住人が僅かに来るが、昼間の混雑が嘘のように静かな店内では有線のミュージックが静かに流れている


「いらっしゃいませ」

「開店おめでとう。 挨拶が遅れてすまんな。 わしは近衛近右衛門。 木乃香の祖父じゃ」

夜8時を回り店内の客が途切れそろそろ閉店しようかと考えていた時、近右衛門が一人で店にやって来ていた


「わざわざありがとうございます。 こちらこそお世話になってますよ。 今日も彼女のおかげで彼女の友人が来てくれて繁盛してました」

突然の近右衛門の来店だったが特別険悪になる訳でもなく、近右衛門も横島もごくごく普通に会話をしてく

横島としては少し意外な来店だったが、木乃香の事を思えば一度は顔を出しても不思議ではない


「麻帆良の感想はどうじゃな?」

「笑顔が多くていい街っすね。 気に入ったんでしばらくお世話になるつもりです」

「木乃香の事、よろしくのう」

近右衛門は静かな店内でしばしの間、コーヒーを片手に横島と世間話をして帰って行った


(あれが魔法協会のトップな訳ね。 やっぱ食えないじい様だな)

近右衛門が来た目的は、明らかに横島を直接見る事である

横島に不快な思いをさせないようにかなり気をつけてはいたが、本心は横島がどんな人間か直接見たかったのだろう

まあ組織の目的と言うよりは、孫娘である木乃香を案じて来たようではあるが……


(馬鹿でもないし懐が深いのは確かか)

始めて直接近右衛門を見た横島だったが、その印象はそう悪くはなかった

得体の知れない横島を完全に信じた訳ではないだろうが、余計な詮索をする意思はないようだし一定のルールを守っている以上は手を出さないだろう事は明らかである

今回も探りを入れると言うよりは、木乃香の為という印象が強かったのだから



「やはりあれならば問題ないのう。 一般人か魔法使いかは分からんが、争い好きには見えんしな」

一方店を後にした近右衛門だが、現状の横島なら問題はないだろうと考えていた

正直先程の短い時間では横島の力を見抜けなかった近右衛門だが、争いを好まぬ人間なのは見抜いている


魔法の力や技術は決して限られた者だけの力ではないし、日本を始め世界には魔法世界や組織と関わらない隠れ住む者達も多かった

第二次大戦後の日本では経済発展と共に、そんな隠れ住む者達が大都市に紛れて密かに生きてることも知っている

近右衛門はそんな組織外の魔法関係者を、多く麻帆良に受け入れて来た過去があった

基本的に魔法の秘匿を守り悪用をしない人間を近右衛門から手出しすることはなかったし、相手にむやみに踏み込むこともなかったのである

結局近右衛門は横島が何者だろうと、麻帆良のルールを守る限りは余計な手出しも詮索もするつもりはない

この老人はいささかツメが甘い性格をしているが、魔法使いの力量と政治的なバランス感覚は抜群だった

日本政府やメガロメセンブリアの双方と対等に渡り合い、麻帆良学園の独立性と平和を守って来ただけの力量は確かにあったのである


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