横島君のお店開店

その後も結構客は来るが、客のほとんど全ては木乃香の知り合いだったりする


「なかなか繁盛してるようでよかったネ」

「花籠わざわざありがとうな。 しかも開店初日に来てくれるとは思わなかったわ」

「商売敵は早めに偵察するに限るネ」

お昼に差し掛かる頃、超鈴音は四葉五月と古菲を連れて店にやってくる


「超包子とは勝負する気ないわ~ 勝てる気しないしな」

「なかなか料理が上手いのは聞いてるネ。 楽しみにして来たヨ」

僅かに横島を挑発するような笑みを浮かべる超だが、どちらかと言えばエールを送ってるようにも聞こえる

そんな超だがメニューを見て僅かに固まっていた

それは通常の喫茶店のメニューの他にある、本日の限定オススメメニューが《天ぷら定食》だったのだから


「なんで喫茶店で天ぷら定食があるネ……?」

「せっかくだから頼んでみましょうか」

「お腹空いたアル」

流石の超鈴音も喫茶店で天ぷら定食をオススメにする、横島のセンスが理解出来なかったようだ

僅かに固まる超と対照的に五月が天ぷら定食を頼むと、古菲と超もつられるように頼む事になる


「おまちどおさま~ 天ぷら定食三人前や」

およそ10分ほどして木乃香が天ぷら定食を運んで来るが、その予想以上の見た目に超と五月は目を丸くしてしまい古菲は真っ先に天ぷらにかぶりつく


「おおっ! 美味いアル!!」

「本当に美味しいです」

「喫茶店に出す料理じゃないネ」

古菲と五月は驚きつつも天ぷら定食を堪能する中、超はますます横島の理解に苦しんでしまう


「今日のメニューは一番喫茶店らしいですね。 フランス料理なんて出されたらどうしようかと思ったです」

「せめて食堂にするべきだったわよねー」

「美味しそうね。 私達もあれをお昼にしましょっか」

超の驚く顔を見て夕映と明日菜は気持ちが理解出来るのか苦笑いを浮かべるが、今日はまだマシだと感じたらしい

そんな超達の天ぷら定食を見ていたハルナが自分達も頼んだ事で、天ぷら定食は次々に売れていく事になる


「これで280円は安すぎない? 牛丼じゃないんだからさ~」

海老・キス・イカなどの魚介と野菜の天ぷらに、ご飯とみそ汁とサラダで280円の値段だったのだ

美砂と円は最初メニューを見た時は値段が間違ってるんじゃないかと疑っていたらしい


「開店セールみたいなもんだよ。 来てくれた人へのサービスだな」

開店数時間ですでに喫茶店らしくなくなってきた店内だったが、横島は割と嬉しいようで楽しげに客と話している

この後280円の天ぷら定食は彼女達から友人に情報が伝わり、木乃香のクラスメートのほとんどが押し寄せて来てまるで教室のように賑やかになるが、横島は満足そうであった



「お客さんが来てホンマによかったわ~」

「木乃香ちゃん達のおかげだな。 しばらくはあんまり客が来ないかと思ってたんだが……」

お昼の時間が過ぎて午後1時頃にはクラスメート達のほとんどが帰り、横島と木乃香は一息ついていた


「ウチもまさかみんな来るとは思えへんかったえ~」

「デザートと天ぷら定食が大人気だな。 明日は何にしようか」

初日から天ぷら定食を提供した横島だったが、これはまだまだ始まりに過ぎなかった

横島の喫茶店らしくない喫茶店はこれからが本番なのだから
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