麻帆良祭

「そうですか。 彼の孫ですか」

近右衛門から聞かされた話に千鶴子は僅かに懐かしそうな表情を見せる

ネギの祖父であるメルディアナ学校長は、実は留学生として大学時代の二年間共に学んだ友人だった

当時の麻帆良は第二次世界大戦で日本が敗北した影響でメガロの影響力が強くなってしまい、結構な数の魔法使いが麻帆良に派遣されており彼もその中の一人だったのである


「今度はしつけは出来てるんじゃろうな。 あの非常識な息子のおかげでどれだけ面倒事が降り懸かったことか」

「高畑君はナギに似ずにいい子だと言うが、怪しいかもしれん」

懐かしそうな千鶴子と対照的に清十郎はナギを思い出し、本当に嫌そうな表情を隠すこともしなかった

そんな清十郎に近右衛門はネギ個人の情報を伝えるが、清十郎も千鶴子も話を聞く表情は微妙である

まだ子供でありこれからの教育次第では将来に期待出来るが、やはり母親の素性が問題になってしまう

厄災の女王にて二十年前の戦争の犯罪者であるネギの母親の存在は、どう考えてもプラスになる要素がないのだ


「魔法界のアリアドネーに受け入れを打診しては?」

「無理じゃろう。 確かにあそこは中立じゃが、好き好んで爆弾を抱えたいはずがない」

近右衛門の説明が終わると千鶴子は魔法界の武装中立であるアリアドネーにネギを受け入れて貰えないかと考えたようだが、近右衛門はそれを静かに否定する

確かにアリアドネーは中立であり帝国や連合の権力にも屈しないと言われているが、実際はそれほど単純ではなく小国故の努力と苦労が絶えない

現時点でネギを受け入れてメガロ内の権力争いに巻き込まれるのは避けるだろうと近右衛門は見ていた

第一アリアドネーで済むなら祖父がそうしてるはずである


「しかし奴ももうろくしたな。 孫の受け入れを決める為に余計な問題を起こすとは…… 明日は我が身じゃな」

ネギの問題に関して清十郎が感じたのは自分達が年老いたとの実感だった

メルディアナ学校長も、昔ならばこんな間違いを起こすはずがないような聡明な人物だったのである

孫可愛さに目が曇ったとも言えるが、判断力の低下は否めない

明日は我が身だと自分を戒める清十郎だったが、このまま楽隠居という訳にもいかないのだ


「もっと早く組織の統合と後継者指名すればよかったんですわ。 私達もいつお迎えが来るか分からないのですよ。 未来へ憂いを残す訳には行きません」

結局ネギに関しては近右衛門が決めた以上の方法は現実的には難しく、問題は魔法界との今後の関係と東西に分裂した組織の行く末であった

特に千鶴子は十年以上前から近右衛門に対して、後継者指名と組織の統合を進めるように言っていたのだ

組織の統合も後継者の育成も一朝一夕では不可能な訳だし……

清十郎と千鶴子が健在のうちに日本の魔法協会の確かな形を作るべきだと何度も話し合っていたのである


「未来といえば、アレも問題じゃのう。 いっそ向こうの国にくれてやったらどうじゃ?」

少し強い口調で迫る千鶴子に近右衛門が困っていたのを見て清十郎は少し話の矛先を変えるが、その話になるとその場の空気は更に重くなる



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