麻帆良祭

さてこの日の横島達の担当時間は昼過ぎからであった

木乃香達はすでに横島が細かな指示を出すまでもなく自発的に調理を進めており、互いに協力しあい力を合わせることでプロにも負けないほどの料理を常時提供している

調理の簡単なメニューや全体のマニュアル化など横島は彼女達だけでも出来るようにいろいろ考えては来たが、それでも現状の成果は彼女達の努力の証と言えるだろう


(力を合わせるか……)

楽しそうに働く木乃香達の表情にふと視線が向いた横島は、当然のように力を合わせることが出来る少女達が少し羨ましいと感じる

それはある意味一番簡単なことだが、一番難しいことでもあるのだから

世の中には力を合わせれば解決出来ることは多いが、それは規模が大きくなるほど難しい

少なくともかつての横島には出来ないことだった


(不思議な街だな)

横島から見て麻帆良という街は少し不思議だと感じる

ただ平和な街と言うだけなら決して珍しくはないが、麻帆良には何か他にはないモノを感じずには居られなかった

決して平和で幸せなだけの街ではないし、苦労や問題は当然存在する

しかし麻帆良には何かがあるような気がしてならなかった



「よし、お子様ランチにしよう」

「……はい?」

しばし無言で働きながら考え込んでいた横島だが、突然お子様限定ランチにすると言い出す

突然妙なことを言い出す横島に、隣で調理していた千鶴は意味が分からず首を傾げるばかりである


「いや明日からの本番で、お子様ランチをメニューに追加しようと思ってな」

また突然な思い付きが始まった横島がいったい何を考えてその結論に達したのか、千鶴は聞いてみたい気もした

まさか一瞬前までシリアスなことを考えていたとは思いもしないようである


「今からメニューの追加をするんですか?」

「新しいメニューってよりは、今あるメニューを子供用にするんだ。 ちょっと手間がかかるけど大丈夫だろ」

ようやくスムーズに営業出来るようになったのに今からメニューを追加するのかと千鶴は多少不安そうだが、横島はすでに決めたようで半ば勝手に話を進めていく


「いつものことや」

「横島さんですから……」

そんな突然の変更に話が聞こえていた木乃香と夕映は、全く驚きもなく普通であった

そもそも二人はこのまま横島が普通に終わるとは全く思ってなく、また何か言い出すと考えていた

というか先程からしばらく無言だったことから、夕映などはそろそろだと様子を伺っていたくらいである


「どんな盛り付けがいいかな?」

「やっぱり可愛い方がええよ」

「基本としては量を減らして複数の味が楽しめるような物でしょうかね」

結局横島の提案に木乃香と夕映が乗る形でアイデアを出して行き、横島達は仕事をしながらお子様ランチの内容を考えていく

忙しい最中で正直手を休める暇はないが、それでもまだ考える余裕はあるらしい


(おかしな人ですね)

木乃香達とお子様ランチの内容を相談する横島は間違っても大人には見えない

千鶴はその時々で変わる横島の表情を見て思わず笑みをこぼしていた


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