麻帆良祭

「三千円のメニューが四十分で完売かよ。 大学生って金持ちなんだな」

結局限定販売のディナーメニューは、僅か四十分で各二十食完売してしまった

確かに普通ならば大赤字のはずのお得なメニューだが、それでも原価を知らない客が三千円のメニューをそれほど頼むか疑問だった横島だが結果は見事に完売している

そんな高価なメニューを頼んだ客の半数は一般の大人だったが、残り半数は大学生だった

自身の高校時代をふと思い出した横島は麻帆良の大学生の懐事情に、僅かに複雑な心境を感じたのは言うまでもない


「まあディナーは本番でもこれ以上増やせんしな。 噂にでもなって宣伝になりゃいいか」

売れば売るほど雪広グループが赤字になるディナーメニューは、本番でもさほど売る予定は無かった

表向きは宣伝とサービスの為のメニューだが、実のところ学園祭の出し物で本格的なメニューを販売したら面白いのではとの軽い意見から販売しただけだったりする


「ゴメンな、やっぱ本格的な紅茶は無理だ」

その後営業も終わり明日と本番への改善点の話し合いをするが、あやかの提案だった本格的な紅茶の提供は無理だとの結論に達する

紅茶の場合は入れ方も重要だが、紅茶の茶葉の種類や質に水なども大事なのだ

本格的にやると手間がかかり値段が跳ね上がるし、中途半端にするならティーパックで美味しく飲める工夫をした方がよかった

横島も一日考えてアイスティーやハーブティーの提供などいろいろ考えたが、現状の人員では無理としか言いようがない


「そこまで真剣に考えて頂かなくてもよかったのですが……」

横島は申し訳なさそうに謝るが、謝られたあやかは単純な感想を述べただけであり逆に申し訳なさそうな表情を見せる

出来ないことはあやか自身もよく理解してるし、そもそも真剣に考えて欲しくて言った訳ではないのだ

結局本格的な紅茶の導入は見送られ続けて今日から導入した簡易マニュアルについて話し合われるが、こちらの結果は満足のいくものだった

途中で追加された部分が少しあったりもしたが、基本的に目安となるマニュアルがあった方が少女達は上手く働けるらしい

マニュアルの導入は時間や材料のロスなどの欠点も存在したが、中学生の少女達で営業する以上仕方のないものである何より僅かな期間でファーストフードやファミレスとも余裕で戦える味の店を作り上げただけで、端から見れば奇跡に近いものがあった



「みんな忙しいんだな」

話し合いに続き発注や前日に必要な仕込みを終えた横島は、最後まで残ってた者を食事に誘っていたがみんな忙しく来れたのは明日菜だけである

木乃香や夕映ですら部活の準備で今日は忙しいらしい


「クラブの準備も追い込みしてるんですよ。 私は美術部なんで暇なんですけど……」

成り行き上で横島と二人で食事に行くことになった明日菜は微妙に表情が硬かった

別に横島と食事に行くのが始めてではないが、周りを歩く学生は気のせいカップルが多いせいで微妙に意識してしまうようだ

38/95ページ
スキ