麻帆良祭

「貴様らは私が誰だか知らないからそん事が言えるんだ」

冷たく突き放す事は出来ないエヴァは自分に関わってもいい事などないと言わんばかりに距離を開けようとするが、横島とさよがそんな言葉を気にするはずはなかった


「誰ってさよちゃんのクラスメートのエヴァちゃんだろうが」

「そうですよ」

意味を理解してぼける横島と理解しないさよは息をピッタリ合わせてクラスメートだと言い切るが、エヴァは僅かに苛立ちの表情を見せる


「だから私は……」

「細かいことはどうでもいいだろ。 なあ、さよちゃん」

「はい! 友達になってくれるならそれでいいです」

僅か苛立ったまま何かを語ろうとしたエヴァの言葉を横島は遮り、さよは横島の言う通りだと頷く

両者の間には知る者と知らぬ者で立場が真逆なのだが、面白いほど意見が一致してしまう


「貴様……、知ってて言ってるだろ」

「何のことだ?」

今まで互いに相手に踏み込まなかった為にあまり確証が無かったが、エヴァは自身の正体を横島が知っていることを確信する

元々裏の人間なのは互いに理解していたが、エヴァは自身の正体を知られてるかは半信半疑だったのだ

関東魔法協会の者でさえエヴァの顔を知らない者が居るのに、部外者の横島がどこまで知ってるかは確証が無かったのである

まあエヴァが正体を知るか知らないかに興味が無かっただけとも言えるのだが


「さて朝飯にするか。 せっかくだから一緒にどうだ? 美味いアジの干物があるんだが」

「貴様と言う男は……」

あくまでもとぼける横島はエヴァを朝ごはんに誘うと返事を聞く前に店の方へと歩いていく

横島がはっきり話すつもりがないと理解したエヴァは再びため息をはくが、ごまかすように誘われた朝食を断るつもりはないらしい


「お前もおかしな男を友達にしたものだな」

「そうですか? とっても優しいですよ」

いつの間にか話の主導権を握られて振り回されていたエヴァはニコニコと笑顔のさよに愚痴るように言葉をかけるが、さよはそれが嬉しいのかいつもに増してご機嫌である


「あの……マスター?」

「気にするな。 幽霊が居るだけだ」

横島が去りエヴァが無言になった事で話について行けなかった茶々丸は、ようやくタイミングを見つけて事実を尋ねるがエヴァは一言で終えてしまう

エヴァの性格上これ以上聞いても無駄だと悟った茶々丸は、後で横島に聞くしかないと考えるしかなかった



一方店の厨房に入った横島はエヴァと自分の二人分の朝食の支度をするが、店に来た理由はただ単に二階の住居には二人分の皿などがないからだったりする

いつもはレトルト食品やカップ麺などで朝を済ませる為に二人分の茶碗などが無いのだ


(あの様子なら問題ないな。 いい友達になれるだろ)

エヴァを振り回し半ば勝手にさよの友達にしてしまった横島だが、無論エヴァが本当に嫌がればそれで終わるはずだった

割といい友達になれるような気がしたので煽ってみたが、予想以上にエヴァの反応がよかったのである



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