結局混乱が収まったのは三十分ほど後のことだった

不思議なもので横島が一つ二つアドバイスすると、後は少女達が自発的に考えても厨房がスムーズに回っていく

元々横島が居なくても出来るような体制は作っていただけに、落ち着きを取り戻すとすぐに作業が進んでいくのだ

やはりミスをしてもフォローして貰えるとの安心感が大きいのだろう

そしてこの日の営業が終わった後には明日からの営業に向けて幾つかの改善点が話し合われる予定だったが、横島の提案で明日の営業前に変更になり解散していた

店内の掃除と明日の仕込みの一部を終えた横島は、自分の店に木乃香達四人とあやか・千鶴・超・五月の主要メンバーを集めて具体的な対策の検討に乗り出す


「私達の問題は下準備の判断が難しいことでしょうか」

「厨房から店内が見えないから、よく分からないんです」

対策を考える前に具体的に困った点などを細かく聞いていく横島だったが、最初に話し始めたのはサポート担当の夕映とのどかだった

二人に続き各担当に難点や失敗した点を聞きながらも、横島は普通のノートパソコンを使用して改善点を考え即座に文章化していく

いろいろ混乱したと聞いた横島は基本的な対応マニュアルを作ろうと考えたらしい


「最初は携帯も持ってなかった横島さんが、今はパソコンを持ってるのね」

そのままカタカタと凄まじいスピードで文章を打ち込む横島に、ふと出会った頃を思い出した明日菜は若干不思議そうに見つめていた

今でこそ横島がパソコンを持ってても驚きなどないが、最初会った時に携帯もなかったことを考えれば凄まじい変化だと思うようだ


「えっ……！？」

「いいんちょ達は知らないんだっけ？　元々横島さん一人で旅行してたのよ。　麻帆良に来た頃も野宿してたらしいし」

ふと出た呟きに驚くあやか達に明日菜は出会った頃の横島の様子を語るが、携帯もなく野宿しながら旅をしていたと聞くと流石に驚きを隠せない

彼女達も横島が麻帆良に来る前は旅をしていたのは知っていたが、流石にそこまで何もないとは思わなかったようである


「思えば不思議な縁だな。　あの時木乃香ちゃんが声をかけてくれなかったら、俺は今もどっかで一人野宿してただろうよ」

旅をしていたと言えば聞こえはいいが、言葉を変えれば浮浪者とも言えるのではと思うとあやか達四人は驚きを隠せないようだった

そんな彼女達を見て横島は何故かクスクスと笑ってしまう

全てはあの瞬間に始まったのだ

横島が店を構えたのも麻帆良祭に参加するのも、あの出会いが無ければなかったのだから


「あの時は面白そうな占い師さんに見えたんよ」

「私は新手のナンパにしか見えなかったけどね」

僅か数ヶ月前の出会った頃にも関わらず、木乃香も明日菜も何故か懐かしさが込み上げてくる

あの時の偶然の出会いから全てが始まったかと思うと、何か感慨深いものがあるのかもしれない


「こんなに可愛い女の子に囲まれて仕事が出来るとはな～　いい出会いだったわ」

出会った頃を懐かしむ木乃香と明日菜に、横島は相変わらずの調子で幸せだと言い切って笑っていた

その笑顔と軽さがどこか心地好く感じる木乃香達もまた、出会ってよかったと実感する