麻帆良祭

その後も何度か怪しげなサークルの勧誘などに声をかけられた横島は、早々に裏通りから逃げ出していた

どうも騙しやすそうな人に見えるらしく、妙な人に限って声をかけてくるのだ

結局普段あまり行かない場所に行こうということになり麻帆良湖の近くに行ったが、こちらでも湖畔の公園や砂浜ではイベントの真っ最中である


「ビーチバレーって始めて見ました」

『俺も生で見たのは始めてだけど……』

二人は麻帆良湖の砂浜で行われていたビーチバレー大会の予選を偶然見かけた為見物していたが、横島もさよも楽しそうだった


(これはなかなかいい光景で……)

たださよにバレないように気をつけながらも、横島の興味はビーチバレーをする水着の女性に向いてしまう

健康的な女性が水着でビーチバレーをする姿は何とも言えないものがあるらしい

昔みたいに露骨な表情は出さないが、本質的には横島は横島のままであった

だが実際ビーチバレーを見てる男性の多くは女性に視線が行くし、決して横島が特別な訳ではないようだ

ついでに近くで売っていた焼きとうもろこしなんかを食べながら見物すると、思わず昔に戻ったような感覚になりそうになる


「あんな格好で恥ずかしくないんですかね?」

『今度さよちゃんも水着着てみるか? 幽霊の服なんてのも世の中にはあるんだぞ』

「私が水着ですか!? 恥ずかしいような着てみたいような……」

最初は純粋にバレーを楽しんでいたさよだったが、やはり彼女も水着が気になるらしく不思議そうに横島に尋ねていた

しかし横島はそんなさよの疑問に、自分も水着を着てみれば分かるんじゃないかと言い出し水着を勧める

さよは自身が水着を着た姿を想像して恥ずかしそうにキャーキャー騒ぐがやはり楽しそうだった


「私、海って行った記憶ないんですよね。 麻帆良から出れませんし……」

『海か? じゃあ今度連れて行ってやるよ。 俺と一緒なら麻帆良から出れるしな』

自分の水着姿を想像して騒いでいたさよだったが、突然静かになると海に行ったことがないと言い出す

どうやら水着を着るなら海に行ってみたいとの想いが強くあるらしい

さよのそんな想いなど見れば分かる横島は、あっさりとさよを海に連れていく約束を交わす


「本当ですか!?」

『ああ、海くらいなら構わんぞ。 ただもう少し暑くなってからの方がいいだろうけどな』

麻帆良から出れると軽く言った横島の言葉が信じられない様子のさよは何度も確認するほど、麻帆良の外の世界に興味があるらしい


「私東京にも行ってみたいです!」

『じゃあ麻帆良祭が終わったら東京見物にでも行くか? ずっと麻帆良に居たなら、そりゃあちこち行きたくなるよな~』

幽霊なのにアグレッシブなさよに横島は僅かに驚きの表情を見せるが、よく考えてみるとおキヌも似たようなものだった事を思い出す

最近さよは横島の家でテレビを見る事にハマっており旅番組なんかも好きらしく、あちこちに行ってみたいとの気持ちが募っていたようだ

結局横島はビーチバレーそっちのけでさよの話に付き合う事になる



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